『遊星からの物体X』のジャケット(写真提供_ランブリングレコーズ)
『遊星からの物体X』のジャケット(写真提供_ランブリングレコーズ)
『ペイネ 愛の世界旅行』のジャケット(写真提供_ランブリングレコーズ)
『ペイネ 愛の世界旅行』のジャケット(写真提供_ランブリングレコーズ)

 数々のマカロニ・ウェスタン映画の音楽で知られるイタリアの作曲家エンニオ・モリコーネが7月6日、91歳で亡くなった。これまでに手がけた映画やテレビのサントラは悠に500作を超え、アカデミーやグラミーなどの受賞も数知れない。近いところでは、2016年にクエンティン・タランティーノ監督作『ヘイトフル・エイト』の音楽で、第88回アカデミー賞作曲賞を受賞。03年のNHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』の音楽を手がけ、当時の日本で大きな注目を集めたこともある。

【写真】『ペイネ 愛の世界旅行』のジャケット

 モリコーネといえば確かにマカロニ・ウェスタン系作品でおなじみだ。とりわけ『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』といったセルジオ・レオーネ監督の作品を中心に、1960年代は1年に何作も手がける職人のような多作ぶりを見せていた。また、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督の『ソドムの市』、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『1900年』などの作品も手がけた。スリル、猟奇、エロス、狂気、慈愛などが交錯する複雑な心理描写を表現させたら、この人の右に出る者はいなかったと言っていい。

 そんなモリコーネの映画音楽の中でも、とりわけ通の間で好まれる1枚が82年『遊星からの物体X』だろう。ジョン・W・キャンベルの『影が行く』を映画化(2度目)したもので『ハロウィン』で知られるジョン・カーペンター監督がメガホンをとったSFホラー作品だ。地球外生命体と人類とのいつ終わるとも知れぬ闘いを描いたこの作品では、モリコーネが得意とするストリングスの使い方が実に秀逸。ホーンによって不穏なムードを伝える展開で始まる「Wait」は、中盤からダイナミックでありながら混沌とした音と音の絡みによって闇を演出していく。その闇の様子にはゾクゾクさせられる。一方、前半でストリングスの細かなトリル音で不気味な気配を伝える「Despair」は、後半から一転、流麗な長音を生かした広がりのある音の空間を作り上げている。当時の撮影スケジュールの都合で、モリコーネはかろうじて完成していたわずかなシーンだけを見て作曲したという(なので、半分以上の曲が映画では使用されていない)。それだけにモリコーネの想像力あふれるコンポーズが堪能できる作品と言うこともできるだろう。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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