「気づけば拭いている」という長崎の松翁軒。アルコールのにおいで満ちそうだが常時換気しているため問題なし(写真:各社提供)
「気づけば拭いている」という長崎の松翁軒。アルコールのにおいで満ちそうだが常時換気しているため問題なし(写真:各社提供)
期間限定の「家族団らんセット」を二鶴堂の従業員がマスク着用で箱詰め。毎日、全国各地へ出荷している(写真:各社提供)
期間限定の「家族団らんセット」を二鶴堂の従業員がマスク着用で箱詰め。毎日、全国各地へ出荷している(写真:各社提供)

 手土産需要も、旅行客や外国人観光客も激減した。何十年、何百年と銘菓を作ってきたメーカーは売り上げ減に苦しむなか、気丈に前を向いている。AERA 2020年7月20日号の記事を紹介する。

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「お客さまに『今日はやってません』とは言いたくなかった。一人も買いに来なくても仕方ないと思いつつ、毎日焼き続けた。売り上げは、『減った』としか言いたくない」

 1890年創業の紀文堂総本店5代目の手塚雄介さんは、そう語った。東京・浅草雷門を正面にして3軒目に人形焼の店を構える。

 外国人観光客は激減し、賑わっていた街は静かになった。さみしい気持ちはもちろんある。ただ、紀文堂は地元客も多く、「まだいいほう」。土産物中心の商店街・仲見世は「うちよりきついのではないか」と気遣った。

 でもね、と力強く続ける。

「浅草寺はここにあるんだよ。雷門も、あるんだよ。それは事実でしょう。その門前で商売をさせてもらっている以上は、やるべきだと思った。だから店を開けさせてもらった」

 なぜ、“させてもらっている”なのか。

「人が自然に集まる浅草寺や雷門っていう場所に店を開くことができたのは、そもそもありがたいことだと思うんだよ。だからいつも商いを続けさせてもらってると感謝していて。ほらね、つい“もらってる”って言っちゃう(笑)。コロナでこういう気持ちは強くなった」

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、観光客や手土産需要が減り、全国の銘菓メーカーが窮地に立たされている。

「通りに人が歩いていない。一部店舗では開店休業状態」(北海道・六花亭)、「バスツアー予約がほぼキャンセルに」(山梨県・桔梗屋)、「4月中旬から生産量を9割削減」(愛知県・文総本店)、「来客数が7割減」(広島県・高津堂)……。

 だが、来客数も売上高も激減しているにもかかわらず、取材した19のメーカーは、通販サイトに力を入れ、キャンペーンを実施するなど前向きな取り組みが目立った。「電話での配送注文が増えてありがたかった」(前出の紀文堂総本店)、「売り上げの一部を医療機関へ寄付しました」(北海道・ISHIYA)など、コロナ禍によって感謝の気持ちも深くなったという。

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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