福岡県北九州市で32年間にわたりホームレスの支援を続けているNPO法人「抱樸(ほうぼく)」の理事長で牧師の奥田知志(ともし)さん(56)が言う。

「ウイルスは金持ちも貧乏人も有名人も平等に感染します。ただ、そこから発生する被害は明らかに格差が出てくる。社会が以前から抱えてきた矛盾や格差、脆弱性(ぜいじゃくせい)が新型コロナのような災害時に拡張して露呈しているのです」

 路上生活者のケースでは、たちまち憲法で保障されている生存権が脅かされる。コロナ禍が社会の歪みをあぶり出しているかのようだ。

 それは、子どもの貧困問題でも同じことが言える。

■孤立しやすい貧困層

 5月下旬の夜、関東地方の母子家庭の困窮世帯で中学生と小学生の兄弟げんかがあった。母親は不在で、兄が刃物を持ち出すまでに発展した。幸い大事に至らなかったが、翌日になっても怒りが収まらない兄の様子を見て、母親が警察に届け出た。

 家族を知る関係者によれば、コロナによる学校の休校後、兄の精神状態が安定せず、母親は「最近は暴力が始まり、まずいと思っていた。次は本当に刺してしまうかもしれない、もう手に負えないと思い、通報した」と話していたという。兄は児童相談所に保護された。

 東京都の川野礼(あや)さん(31)が足立区で開いていた「あだち子ども食堂 たべるば」は、休校に伴い3月以降は区の要請もあって開けずにいる。学校も子ども食堂もない状況を憂う。

「富裕層と比べて社会との接点を持つ機会が少なく、孤立しやすいのが貧困層です」

 別の方法で支援が必要と感じ、川野さんは4月上旬までの1カ月以上、十数世帯に1日1回、昼間に弁当を届けた。それ以降は、孤立を防ぐためにiPadを公共施設から手配して特に生活が困窮している6人の子どもに貸与し、毎晩1時間ほど、テレビ会議システム「Zoom(ズーム)」で話している。

 保護者が不在の日中、子どもたちは誰とも話をしない。家庭の中のことで、よほどのことがなければ公が介入することもない。川野さんが続ける。

「数カ月間もそうした状況に置かれることの心身への影響は大きく、それはセルフネグレクトや家庭内暴力などの形で表れます。最初から学校と連携して対応できたら良かったのですが、今後の課題にしたい」

(編集部・小田健司)

AERA 2020年6月8日号より抜粋