病気そのもの(第1の顔)の他、ウイルスがもたらす不安や恐れなどの心理的な影響(第2の顔)、不安から引き起こされる偏見・差別といった社会的な影響(第3の顔)をあわせ、「ウイルスの3つの顔」と呼んでいる。

 動画を監修した同社の災害医療統括監・丸山嘉一医師が説明する。

「外出自粛など、感染の予防ばかりに目が向けられてきましたが、実はウイルスによってもたらされるのは疾病そのものよりも、社会的な影響、第2・第3の顔のほうが大きいのです」

 感染者や周囲への差別に対して危機感を持つのは、過去の教訓があるからだ。

「赤十字は国際的な組織です。これまでアフリカで猛威を振るったエボラウイルス病、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)などの感染症の流行時に、不安や差別が社会を分断してしまった状況を経験しています。幸い、日本ではこれまでそういった不安や差別に晒(さら)される経験がありませんでしたが、今回は新型コロナウイルスのもたらす心理・社会的影響が広がる確信がありました」

 コロナ禍ならではの事情について、丸山医師はこう補足する。

「これまで日本が経験した地震や津波、豪雨といった自然災害であれば、被災地は特定の地域に限定されます。コロナウイルスの場合はすべての地域、生活圏が被災地と言えます。影響を受ける人数の規模が異なります。また、自然災害の場合は脅威の対象が明確ですが、今回の場合脅威が曖昧(あいまい)で見えないことも特徴的です」

(編集部・高橋有紀、小長光哲郎)

AERA 2020年6月1日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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