稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
我が家にもアベノマスク来ました。寄付予定ですが、これこそ自己申告制にすればよかったと思う(写真:本人提供)
我が家にもアベノマスク来ました。寄付予定ですが、これこそ自己申告制にすればよかったと思う(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんの家に届いたアベノマスクがこちら

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 例の「国民一律10万円」が発表されてから、色めきたっている人を散見する。あれを買おう、いやあれにしようかと嬉しそうで久々の明るい話題。でもそんな話をするのはたぶん本当に困っている人じゃない。コロナ禍で人生の危機に陥っている方々は何を買おうかなんて言ってる場合じゃないはずだ。10万円など焼け石に水であろう。

 もちろん国が「くれる」っていうんだから貰っていいのである。でも私がよくわからないのは、これってそもそも喜んでいいカネなのかってこと。だってその10万はどこから出てくるかっていうと、元は我らが納める税金だ。つまり我らが一律にいただくお金は結局我らが一律に負担するってことで、要するに強制借金? などとツラツラ考えていたので、国が言い出した「自己申告制」は存外悪くないように思えた。困っていなければ受け取らない選択をすれば、真に必要なところにお金が回るかもと考えたのである。

 でもフト、もっといいことを思いついてしまった。

 この10万円を国の施策が行き届かないところに回すのはどうだろう。皆を守るための自粛で存続の危機に立たされているものは実にたくさんある。ライブハウス、劇場、映画館、飲食店……国に支援を求める動きもあるが光は見えない。そのようなところにこの10万円を寄付するのだ。日頃世話になっているもの、大好きなものが無くなってしまわないように、このお金をそこに回すのである。

 つまりはですね、我らは予算の執行権を国から譲り受けたのだ。なるほど国のセサクは穴だらけ。それだけでは自分の守りたいものは守れない。ならば自らその穴を埋めるのである。国の予算がスットコドッコイだと思うなら、自らその予算を付け替えるのである。

 そう考えたら、これって超画期的なことかも!

 なくなってみて初めてそのありがたさがわかる。それはいま誰もが感じていること。我々の目はいまこそ澄んでいる。コロナ後の世界を作るのは我ら自身である。

AERA 2020年5月4日-11日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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