ガイドラインによれば、送り出し機関が徴収できる手数料の上限は給料の最大3カ月分で、そのうち最低1カ月分以上の給料と教育費を日本企業が負担する。給料が仮に20万円とすれば、手数料の自己負担は40万円。ベトナムの農村部の月収は1万~2万円だ。技能実習生が負担する額よりは少なくなるが、「特定技能で日本を目指す若者は少ない」と先の幹部は説明する。

「ベトナムの若者にとって重要なのは、すぐに稼げるかどうか。特定技能には技能試験があり、日本語能力も求められる。一から勉強すれば最低半年はかかる。無試験で日本に行ける技能実習という道がある以上、わざわざ難しい道を選ぶ人はいない」

 もう一つ、特定技能のうたい文句となっているのが、「転職の自由」だ。技能実習制度が奴隷制度などと国内外からの批判を受けたことに配慮した。

 ただ、この転職のハードルが相当高い。受け入れ企業や外国人労働者の生活支援を行う登録支援機関には転職支援の義務があるが、あくまで受け入れ企業の人員整理や倒産など「外国人の責めに帰すべき事由によらないで特定技能雇用契約を解除される場合」に限られる。「友人と働きたい」「より給与の高い会社で働きたい」といった自己都合で転職する場合、受け入れ企業や登録支援機関は転職支援をする義務はない。

 企業や支援機関の支援無しに転職する場合でも、特定技能は受け入れ企業にひもづいた在留資格なので、勤務先を変更する場合は「在留資格変更許可申請」を入管に届け出る必要がある。この申請は、日本人でさえ10万円程度を払って行政書士に依頼するような作業だ。日本語能力が不十分な外国人が一人で行うのは難しい。

 しかも転職活動のため辞職することはできず、変更許可申請には転職先に関する資料も必要なため、働きながら転職先を見つける必要がある。飲食料品製造業など、業界内で転職させる「引き抜き行為」の禁止を申し合わせている業界まである。(ジャーナリスト・澤田晃宏)

AERA 2020年4月27日号より抜粋