いま、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「不安」が日本を覆いつくしている。アエラが行ったアンケートでも悲痛な叫びが寄せられた。

 筑波大学医学医療系の太刀川弘和教授(災害・地域精神医学)によると、感染症拡大時に人々が抱く感情には、主に「恐怖」と「不安」があるという。恐怖は「自分や家族が感染したらどうしよう」「気づかないうちに人にうつしていたら」など感染症そのものを恐れる気持ちで、対象が明らかだ。一方、不安は「今後どうなるのか」「自分はどうすればいいのか」など、感染拡大によって二次的に起こる感情で、対象がはっきりしない。

「対処が難しい分、不安のほうが感情としてはやっかいです。恐怖や不安の感じ方はこれまでの体験や性格、耐性によって異なり、個人差が大きい。ただ、今の世相を考えると、具体的な症状はなくても誰もが大きな不安を抱えて生活しているはずです」(太刀川教授)

 恐怖や不安は本来、「危険を感じ取って逃げ出す」という生命維持に必要な感情だ。だが同時に自律神経を興奮させ、「血圧が上がる」「脈が速くなる」などの反応を引き起こす。やがてイライラや焦り、動悸などの変調が表れて、寝つきが悪くなる人も多いという。

「それが長期間続くと疲れ切ってしまい、興奮から抑うつ状態に変わります。不安をより強く感じるようになり、喜怒哀楽が失われたり、周りの状況が他人事のように思えたりして行動する気が起きなくなります」(同)

 東京都の会社員女性(36)は最近、何をするにも気力がわかないという。

「3月中から体がだるく、4月に入ってからははっきり不調を感じています。やる気が起きず、頭にノイズが入ったようで思考が進まない。仕事をしようとパソコンを開いても、ボーッとSNSを見てしまいます」

 振り返ってみると、1カ月近くほとんど外出せず、誰とも話していなかった。3月上旬から在宅勤務。事務作業が中心の職種でビデオ会議などもなく、ひとり淡々と仕事を進めている。通っていたヨガ教室は休みになり、食材は宅配購入なので買い物にも出かけない。

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