直接会えなくても誰かとつながることはできる(撮影/片山菜緒子)
直接会えなくても誰かとつながることはできる(撮影/片山菜緒子)
AERA 2020年4月27日号より
AERA 2020年4月27日号より

 新型コロナウイルスの感染拡大は災害の一種だ。だが自然災害を乗り越えるための手立てが人とのつながりだったのに対し、感染症対策ではそのつながりを断たなくてはならない。日常生活は大きく変わり、多くの人が不安を強めている。AERA2020年4月27日号から。

【みんなの不安の声はこちら】

*  *  *

 4月上旬のある日、朝起きると左耳が聞こえなくなっていた。東京都の会社員女性(29)が病院に駆け込むと、メニエール病再発の予兆が出ていると診断され、医師からこう言われた。

「ストレスですね。新型コロナウイルスの感染拡大や行動自粛が影響しているんでしょう」

 女性は業務過多でメニエール病と自律神経失調症を発症し、昨年12月から3カ月間休職した。だるさや不眠、耳鳴りに苦しみ、3月に復職したばかり。このまま症状が悪化し、再びあの苦しい思いをするのかと怖くなった。

 復職直後、仕事はテレワークとなった。主にチャットツールであるSlack(スラック)を使うが、同僚の表情が見えず気持ちが読みとりにくい。仕事がスムーズに進まなくなった。

 休職中は好きなお酒をやめ、快復後にバー巡りをするのを楽しみにしていた。3月中旬にお酒を解禁したとき、自粛ムードはさほど強くなかったが、「4月になれば状況はよくなるはず」とバー巡りは我慢した。そこへ緊急事態宣言。行きつけのバーは閉店が決まった。女性はこう憤る。

「危機意識が薄い人がいるから、コロナが蔓延した。遊びに出かけず真面目に自粛してきた私たちが損をしている」

 アプリで婚活をしているが、やっとマッチングした相手との食事の予定は流れた。シェアハウスに住んでおり、キッチンやシャワーは共同。感染対策に無頓着で帰宅しても手を洗わない人がいるが、注意もできない。

「今後どうなってしまうのか、一人でいるとつい悪いことばかり考えてしまいます」(女性)

 4月中旬の週末、女性は東京を離れ、北関東の実家に戻った。実家には95歳になる祖父がおり、自分がウイルスを持っていたらと考えると怖い。「コロナ疎開」が批判されているのも知っている。だが、限界だった。

著者プロフィールを見る
川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

川口穣の記事一覧はこちら
次のページ