「現代に何かを創作しようとしても、たいていのことは過去の人がやっている。人というのは、先人が作った古典を肥やしにして、創作をするということを連綿と続けているんですよ」

 そして、死ぬまで枯れもしなければ、色あせもせずに、精力的に描き続けた北斎の魅力をこう考えている。

「『ちょっと可笑しな……』を制作して感じたのは、北斎でしかできない構図や色のすごさ。それにしても何だろう。なんであんなに描くかね。家を片づける間も惜しんで、飯を作る時間も削って、森羅万象と戯れた。当時も天災や疫病の不安はあっただろうに、新型コロナにオタオタして、スマホばっかり見ている俺とは違う。憧れですよ」

 そんな北斎の「気を引きたい」と作ったアニメーションを、もしも北斎先生が生きていたら、どんな感想を持つだろうか?

「『ケッ』『チッ』『プッ』の3音かな?(笑)。で、北斎なら、負けじともっとすごいアニメを作ることも忘れないでしょうね」

 人気ファッションブランド「ミナ ペルホネン」の皆川明さん(53)は、陶芸家の尾形乾山(おがたけんざん)とタッグを組んだ。昨年11月から今年2月にかけて東京都現代美術館で開かれた「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展が多くの観客を集めたことは記憶に新しい。今回の展覧会では、乾山のカラフルな古美術に、ミナ ペルホネンのテキスタイル、洋服、端切れを組み合わせて、ひとつのインスタレーションにしている。

「古典×現代」で古典側の作品選定などを手がけた、古美術研究誌「國華」の主幹、小林忠さんはこう話す。

「乾山こそ、当時の前衛アーティストでしょう。今から300年前の人が、石垣文のような現代的なデザインをよく思いついたなと思います。しかも兄が尾形光琳という画家だからか、色の組み合わせも印象深い」

 そんな当時の新進気鋭作家と、「せめて100年つづく」をコンセプトにしたファッションブランドのデザイナーが、300年のときを超えて出会ったのがこの展示だ。

 皆川さんも言う。

「失礼かもしれませんが、乾山の作品に親しみを感じました。現代に作られたと言われても疑わないほど、300年という時間を感じさせない」

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