では、主観的緊急事態とはどんなものなのか。

「事態そのものの客観的な認定ではなく『緊急事態と認定するのは誰か』に力点を置く考え方です。これまでの議論でも、自民党はその点にこだわってきたので、いざ緊急事態になれば、客観的な認定ではない主観的緊急事態が必要と議論が横滑りする可能性がある」

 自民党内では、憲法を改正し緊急時に政府の権限を強める「緊急事態条項」を新設しようという動きが続く。安倍首相は冒頭の会見でも「改正特措法と憲法改正は全く別物」と説明したが、3日後に開かれた自民党両院議員総会では、憲法改正に向け自民党の結束を訴えている。

 永田町では、安倍首相が5月に「時限的な消費税減税」を掲げて、解散総選挙に打って出るのではないか、とささやかれている。

 消費税増税と新型ウイルスの影響による不況に続き、東京オリンピックの延期が取りざたされる中、前出の与党幹部は「政権浮揚の道はそれしかない」と断言する。

「首相がこだわってきた『完全な形でのオリンピック開催』は、今年は難しい。一方、足元では財務省の決裁文書の改ざんをめぐり、自殺に追い込まれた財務省職員の遺族が国を提訴したことで森友問題が再浮上し、桜を見る会と合わせて、自らの出処進退が問われる事態になっている。野党の追及はやまないだろう。この状況を一変させるには、具体的な引き下げ率は別にして消費減税を打ち出し、合わせて、延期したオリンピックを再び私の手で開催するとぶち上げるしかない」

 ただし、財務省の抵抗は必至だ。時限であろうとも一度でも減税すれば、それを元に戻すことは容易ではない。問われるのは「誰の責任で元に戻すか」だ。もし、安倍首相が「自分の責任で元に戻す」と内外に決意を示せたならば、解散総選挙に勝利し、安倍首相が自民党総裁選で未曽有の4選を果たすシナリオが現実味を帯びてくる。(編集部・中原一歩)

週刊朝日  2020年3月30日号