「人が『何もしなくていい』テクノロジーではなく、人が『行動や挑戦をしたくなる』テクノロジーに興味がある」と、吉藤さんは語る(写真:オリィ研究所提供)
「人が『何もしなくていい』テクノロジーではなく、人が『行動や挑戦をしたくなる』テクノロジーに興味がある」と、吉藤さんは語る(写真:オリィ研究所提供)

 空を自由に飛びたい、世界旅行に行きたい。夢をかなえてくれるドラえもんは、子どもたちの憧れだった。そんな誰もが憧れた未来が、現実に近づきつつある。AERA2020年3月16日号から。

【写真特集】未来の背中が見えてきた? ドラえもん「ひみつ道具」の最前線

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 ドラえもんは不思議な存在だ。ロボットなのに笑い、怒り、泣く。スイッチを押せば、プログラムに従って人間の思い通りに動くロボットとは全然違う。

「身近にいる友達みたいなんですよ。いつでもそばに来てくれそうと思えるところに夢がある」

 作者・藤子・F・不二雄さんのアシスタント経験を持ち、長年ドラえもんの制作に携わってきた漫画家のむぎわらしんたろうさん(51)は、魅力をこう語る。

 そう、ドラえもんはとても人間くさいのだ。確かに、たくさんのひみつ道具で夢をかなえてくれる。でも、「便利だから」愛されるわけじゃない。のび太を励まし、叱り、時には一緒に涙を流してくれる。

 もしかすると私たちを幸せにしてくれるロボットとは、そんな「人の心」に寄り添ってくれるロボットなのかもしれない。

「我々が目指しているのは、テクノロジーによって人が抱える『孤独』を癒やすことです」

 こう語るのは、オリィ研究所所長で、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」の開発者の吉藤オリィさん(32)だ。

 吉藤さんが「孤独の解消」を研究テーマに選んだ背景には、小学校5年生から3年半に及んだ「不登校」の経験がある。

「ストレスによる病気で自宅に引きこもっていました。誰からも必要とされない寂しさで、毎日心が押しつぶされそうでした」

 つらかったことは、まだある。学校に行きたいと思っても、病気で体が動かず外に出られない。

 病気が回復した後、高齢者や障害者に話を聞き、同じような悩みや孤独を抱えている人がたくさんいることを知った。

「ベッドから天井を見上げていたとき、私は『もう一つ体があったらどんなにいいだろう』ということばかり考えていた」

 こうした思いを胸に、吉藤さんは高等専門学校や大学でロボット研究に没頭。10年前、ついに分身ロボットOriHimeが完成した。

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