AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」の場面写真はこちら】
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米国ロサンゼルスに住む映像カメラマンのジョンと料理家のモリー夫妻が、飼い犬の鳴き声が苦情となったことをきっかけに、モリーの夢でもある伝統農法を取り入れた農場づくりのために一念発起。ロサンゼルス郊外の荒れ果てた東京ドーム約17個分の農地を手に入れる……。無謀とも思える夢に向かって歩む夫婦の、8年の奮闘を追ったドキュメンタリーが「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」だ。
モリーが伝統農法のコンサルタントを師に迎え、仲間をインターネットで募り、皆で目指した最終目的は「農場の中で生態系を再現すること」。生物多様性によって自己抑制が利き、害虫の大量発生や病気の流行を防げるというのだ。
クワも突き刺さらないような死んでいた土地を生き返らせることからはじめ、植物や果樹を植え畑を作り、あらゆる食材を育てる。2年目には動物を飼育。生命に満ちたサイクルをつくり上げていく。だが、順調に果樹が実れば鳥に啄(ついば)まれ、カタツムリの大群が押し寄せ樹木をダメにする。自然災害も容赦がない。それでも、チェスター監督は言う。
「謙虚に待っていると、潮の満ち引きではないが自然のリズムが見え始める。(農場で)非常に複雑なエコシステムが働いているということは、問題解決の道具もそこにあるということ。観察するだけが私たちの頼りにできる道具でした。8年の間に学んだことは、失敗を恐れている時の解毒剤は好奇心。好奇心があればあるほど、なぜ悪いものが存在するのか、深いレベルで何と何が繋がっているのか、また共存できるかが見えてくるのです」
チェスター監督は実は、最初からこの作品を作ろうと考えていたわけではなかった。
「自分が見ているものをただ記録したいという気持ちに駆られたんです。自分たちが経験していることにインスピレーションを受けました。うまくいかなくてもこの素晴らしい物語だけはシェアできるかなとも思いました」