台風19号が通過した翌朝の蛤浜。夜中には防潮堤から海側へ溢れ出しそうなほどの水嵩になったという。写真左手の建物は1.5mほど冠水した(写真:亀山貴一さん提供)
台風19号が通過した翌朝の蛤浜。夜中には防潮堤から海側へ溢れ出しそうなほどの水嵩になったという。写真左手の建物は1.5mほど冠水した(写真:亀山貴一さん提供)
防潮堤内が豪雨により冠水する(AERA 2020年3月16日号より)
防潮堤内が豪雨により冠水する(AERA 2020年3月16日号より)

 東日本大震災後、復興工事として昨年8月に完成した防潮堤。だが、昨年の台風19号により、宮城県石巻市の牡鹿(おしか)半島にある小集落、蛤浜(はまぐりはま)では、昨年秋の台風19号で排水路が機能せず、防潮堤が水をせき止めて集落の平地一帯が冠水した。AERA 2020年3月16日号から。

【写真】防潮堤内が豪雨により冠水するとは?

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 冠水の危険性は、防潮堤整備を含む復興計画が持ち上がった段階から、市の担当者に何度も訴えてきたが、市からは“排水のための溝を増やすから大丈夫”との回答しか得られなかった。蛤浜(はまぐりはま)の住民らはこう悔しがる。

「防潮堤ありきで話が進んでいるようにしか思えませんでした」

 蛤浜では東日本大震災以降、海に近い平地部が人の住めない「災害危険区域」に指定されているため、海に近い平地部に人家はなく、人が住むのは東日本大震災の津波も到達しなかった高台だ。では、防潮堤は何を守っているのか。防潮堤整備を担当した石巻市水産基盤整備推進室はこう説明する。

「蛤浜は近くの集落から幹線道路へ抜ける際の通り道になっています。防潮堤は、孤立集落を生まないための避難用道路を守る観点で整備しています。結果として防潮堤が水をせき止め、冠水してしまいましたが、震災による地盤沈下もあって防潮堤をつくらないわけにはいきません。排水システムで対処すべき問題です」

 蛤浜は震災時、津波に襲われながらもすぐに水が引き、当日から通行可能だった。逆に、昨年の台風では一時的にとはいえ冠水した。道路の水没で蛤浜はもとより、隣の折浜(おりのはま)なども一時孤立した。住民は、「道路を守ることすらできていない」と指摘する。

 台風19号では、岩手県山田町でもほぼ同様のケースがあった。震災後に整備された緑地公園の堤防が雨水をせき止め、3カ所あった排水口も土砂でふさがれたことで住宅地が冠水、80戸以上が被害を受けたという。

「想定を超える大量の雨が短時間で降ったことが原因です。現在、検証委員会を立ち上げて対策を検討しています」(山田町建設課)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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