「オペラ座の怪人」「リチャード三世」など今までに演じた役は100を超える。

「僕の生き方として俳優以外はありえなかった。いろいろな役を生きて、悪いこともいいことも疑似体験できる。実人生では絶対に味わえない本物感を味わえる。そこが楽しい。まあ幸せな人生だね」

 質問に答えながら、急に芝居のような声色をつかってみんなを笑わせる。腹の底から出る声が空気を震わせていた。まだこの本を読んでいなかった妻には、

「いつも私に言ってることを書いたんでしょ? って言われるかもしれない。この本は苦労すればしただけいい思いができるという証明本。涙の向こうには希望がある。ネガティブに考えちゃう人は、考え方を変えれば物事はよくなる。それを理解していただければいいんじゃないかな」

(ライター・仲宇佐ゆり)

■Pebbles Booksの久禮亮太さんオススメの一冊

 心理学を専門とする大学教授の著書『情動はこうしてつくられる 脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』は、定説を鮮やかにひっくり返す一冊だ。Pebbles Booksの久禮亮太さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 情動、つまり喜怒哀楽は、脳の古層にある大脳辺縁系が生み出す生まれつきの本能だと、これまで考えられてきた。本書はその定説を心理学と神経科学の両面から鮮やかにひっくり返し、大きな話題となった。

 人は過去の経験をもとに「情動概念」を構築し、ある種の文脈に沿った「予測」として情動を生み出すと、著者はいう。外界から受けるさまざまな感覚刺激を意味付けし喜怒哀楽の情動に変換するプロセスは、社会環境に大きく影響されることになる。つまり、情動とそれに対置されるであろう理性は、仕組みにおいて大きな違いはないのだ。

 情動も理性も、環境と身体の相互関係が織りなすひとつの複雑系システムとして明らかにした本書は、精神医学、哲学、行動経済学に基づくマーケティングなど、さまざまな分野に影響をあたえるはず。

AERA 2020年3月9日号