だが、「近い将来、働き方改革は実現すると思うか」の質問に対して最も多かった回答は、「どちらともいえない」。寄せられた声からは、諦めすら感じられる。

「医師は労働者ではないと言われるくらいだから、働き方改革は言葉だけ」(40代男性、一般内科)「患者が減らない限り絶対に無理」(40代女性、健診・予防医学)

 都内の大学院生で外科系の30代男性は以前、医局から別の病院に派遣されていたとき、「今までにない自由を感じた」という。その病院では、担当する患者の治療方針を主体的に考えられた。一般の病院は、大学より人手が足りない分、任せられる仕事の幅が広い。

「上司から過度に干渉されず、仕事がしやすかった。大学病院では、上司の方針に反するというだけで、医学的に間違っていなくても怒られることもあって、うつになりそうなときもあった。道を間違えたと思ったくらい」

 それでも目指すのは、大学病院で生きる道だ。卒業した大学で研修、大学院と進み、医局で講師や教授を目指すつもりだ。

「若い患者ががんで死なずに済む治療を研究したい。大学病院にいるからできることです」

 大学病院を選ばない人が増え、相対的に医局が弱体化し、昔のように教授が強大な権力を握るケースは減ってきた。「教授になってもうまみがない」という医師もいる。

 厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」のメンバーである順天堂大学の猪俣武範准教授(38)はこう言う。

「教授に利権がなくなったから、大学病院で研鑽を積まないのであれば悲しい。確かに一般の病院や開業医の方が給与水準が高いかもしれない。でも、大学でしかできない研究や教育、生涯を賭すに値するミッションはあります。それを伝えられていないのでは」

 一方で、就労環境の整備も課題に挙げた。

「大学病院にかつての人気がなくなってきた。労働環境を整えるのは、待ったなしの状況です」

 どの進路を選ぶにせよ、医師が働き続けることができる環境のために、現状の働き方の改善が求められている。(ライター・井上有紀子、編集部・小長光哲郎)

AERA 2020年3月2日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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