2003年、交通事故に遭い高次脳機能障害を抱えた俳優・柳浩太郎さん。仲間たちの協力を得て、今、7年ぶりの舞台に立った。
【写真】テニミュ3rdシーズンの越前リョーマや青学メンバーのステージ姿
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ミュージカル「テニスの王子様」(テニミュ)で初代越前リョーマを演じた俳優・柳浩太郎さん(34)が7年ぶりに舞台に立った。2月19~24日まで上演された舞台「夜明け~~spirit~~」はフィクションではあるが、柳さん自身の身に起こった出来事が織り交ぜられている。
2003年、柳さんは舞台初出演ながら「テニミュ」の主役に抜擢される。公演は大成功、続編も決定されたが、同年12月、稽古帰りに交通事故に遭い頭を強打。脳挫傷とくも膜下出血により、一時は意識不明の重体に陥った。
「その時の記憶は飛んでいるんですよ。自分の身に何が起きたのか、1カ月、2カ月かけて少しずつ理解していきました」(柳さん、以下同)
事故によって柳さんは脳に損傷を受け、高次脳機能障害を抱えた。リハビリを経て、事故後1年で再び舞台に立つが、セリフを思うように話せず、体もうまく動かない。当時は先輩俳優と場面ごとに交代するなどして、乗り切ったという。
高次脳機能障害の症状は、人によって異なる。柳さんの場合は、記憶力・注意力・遂行能力などに障害が出た。外見上は障害とわかりにくく、「他の人に理解されにくいところが悩み」なのだという。実際、取材中の会話もナチュラルで、障害を感じさせない。
「うまく工夫しています。そこは僕も役者ですから」
とポーンと胸を叩く仕草でおどけてみせた。その裏では、苦労も多い。普通の人なら自然にできる会話や動作が、計算しないとできない。考えていると、ボーッとしているように見え、障害を知らない人には「集中していない」と思われてしまう。また、左より右半身の自由がききづらく、「バランス感覚がほとんどない」という。以前は歩くときに一瞬片足立ちになる瞬間を減らそうと、足の横幅を開いていたが、今は前後左右への体重のかけ具合を毎回「計算」し、普通の人と同じように見える歩き方ができるようになった。しかし、それはとても疲れやすい。14年に俳優活動を休止し、表舞台からは遠ざかっていた。