復帰のきっかけは1年ほど前、日本・英国・バングラデシュの3カ国の障害のあるアーティストによる舞台「テンペスト」から出演依頼がきたことだった。

「やっと役者の仕事ができる!」という喜びの一方、「この1作品で食べていけるのか?」という不安も湧いてきた。その気持ちを「テニミュ」のプロデューサーだった片岡義朗さん(74)に相談したことで、「夜明け」の舞台が実現した。

 片岡さんの他にも、共演の河合龍之介さん(36)や森山栄治さん(43)、演出の上島雪夫さん(58)など、「テニミュ」の仲間が顔をそろえた。

「彼らは事故前からの僕のファミリー。感謝の気持ちしかない。僕の復帰舞台だけど、『むしろメンバーを観てくれ!』と思う」(柳さん)

 稽古の段階では、脳の障害の影響もあってか、「しょっちゅうセリフが飛ぶ」ものの、持ち前の「アドリブ力」で切り抜ける。柳さんはそうして、自分の気持ちと役をすり合わせていく。他の出演者も、演出家も、柳さんが繰り出す「即興の妙」を楽しんでいるように見えた。片岡さんは言う。

「彼は元来の役者。天才なんです」

「テンペスト」も、5月の上演に向けてワークショップが始まっている。総合演出は、ロンドン・パラリンピック開会式で共同ディレクターを務めた、ジェニー・シーレイさんだ。

「商業演劇とやり方が違う。出演者もみんな違うハンデを持っている。何もかもが初挑戦です」(柳さん)

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2020年3月2日号