「ときどきアルバイトもしています。フリーランス医師の給与は、勤務医時代よりはるかによくなると言われます。常勤の医師では手が足りない現場はたくさんあるので、需要があります」

 勤務医時代より時間もできた。本を書き、ウェブ連載も持つ。ユーチューブでは医療情報の解説動画をアップする。

「自分の裁量で動けるので、メリハリがつきました。大学病院の頃に比べると、いまの方が精神的に非常にいい状態です」

 医局離れは、実は04年に「新臨床研修医制度」が導入されたころから顕著になってきた動きだ。研修医が全国の研修指定病院に希望を出し、病院側は希望者の中から採用する「マッチング制度」が導入され、若手医師が全国に研修に出た。

 だが、18年になって「新専門医制度」ができ、学会ごとに認定していた専門医の資格を、第三者機関である「日本専門医機構」が統括する形になった。研修病院を認定し、そこから地方の病院に若手医師を派遣する。研修病院の多くは、大学病院だ。専門医認定を受けるため、医局を選択する医師が再び増えた。

 医師で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは、この制度は「時代に合わなくなった大学病院の延命策」と手厳しい。

 症例数の多い専門病院には、多くの若手医師が勤務を希望する。経験を積むなら、医局に入らず、最初から専門病院に就職すればいい。上医師は言う。

「それなのに、『専門医』の資格を得るために、何年も症例数の少ない大学病院で働くことになってしまいます」

 上医師は医師という仕事の未来をこう考えている。

「若い医師には、時代の変化にも対応していく力を持ってほしい。真の専門家を目指すか、肩書をとるか、おそらく選択を迫られることになるのですから」

 臨床経験が豊富で深い知見を持つ医師が増えることは、患者にとってもプラスだ。(編集部・小長光哲郎、ライター・井上有紀子)

AERA 2020年3月2日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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