手数料無料に加えて、神谷さんのタルトタタンのレシピを期待して買った人も多かった。秋元さんは11月6日「神谷シェフのご協力により1000kg分がものすごいスピードで売り切れました。本当にありがとうございます」とツイートした。
徳永さんは11月、アップルラインの農業復興を目指して、1千万円を目標にクラウドファンディングをした。1カ月という短期間だったが、目標を上回る約1150万円が集まった。1万5千円を投じた人たちのリターンは、2月7~9日、神谷さんら「#CookForJapan」のメンバーが調理するコラボディナーへの参加。65人分は数時間で「完売」した。
「遠いフランスからシェフの命であるレシピを公開してもらい、コラボディナーにもご協力いただいた。復興支援だけではなく、多くのシェフやパティシエと知り合うことができ、生産者に今後のチャンスを広げてくれた。神谷さんには感謝しきれない」(徳永さん)
東京都のソムリエ蜂須賀紀子さんは、神谷さんらのレシピに合うワインを薦めることで、被災したワイナリーの支援をしようと考えた。知的障害者が作業する栃木県足利市のココ・ファーム・ワイナリーのブドウ畑は、1950年代のブドウ畑開墾以来、最大の被害に見舞われた。「元通りになるには少なくとも3年以上かかりそう」だという。
「神谷さんのポトフにはぜひココ・ファームの甲州F.O.S.を合わせてみてほしい」と蜂須賀さんは薦める。複数の人がレシピを公開したタルトタタンについては、「『こころぜ』のほんのりした甘みと酸味がベストバランスになるものもあると思うの」とつぶやいた。
無料で公開されてもレシピが料理人やパティシエの命であることに変わりはない。神谷さんは「シェフたちはリスクを負ってくれている。作った菓子を売ったり、料理教室での活用やレシピ集の出版など販売目的の使用は禁止です。家庭で楽しむのにとどめて下さい」と釘を刺す。
#CookForJapanのイベントのための来日を控えた神谷さんは言う。
「SNS上の発信だけでなく、実際のコラボも通して、今後も農家と消費者の橋渡しをしていきたい。被災した農作物を買って、菓子や料理を作って味わうことも、大事な応援です」
(朝日新聞鹿島支局長・村山恵二)
※AERA 2020年1月27日号より抜粋