普段の彼の様子から推察するに、頭の中でいろいろ考えていることはあるものの、それを言葉でうまく表現できずにいる状況がひしひしと伝わってきます。
「Aくんはどこで困ってんの?」
「最後の項目(悔いのない選択をするには)に何を書いたらいいか全く思いつかへん……」
「そっか。まずは自分の判断基準に偏りすぎると何がマズいか考えてみたら?」
「僕はみんなと違って、自分のやりたいことを優先しがちやねんなあ」
「自分のやりたいことを優先するのってそんなに悪いことなん?」
「だって、自分勝手な人に思われて、周りから避けられそうやし」
「じゃあ、人の意見に合わせておけば万事解決?」
「それも違う気がするなあ……」
彼はその後のやりとりを通じて、やりたいことの優先度をつけるというアイデアに至りました。
どうしてもやりたいことはやはり譲れないとのこと。
ただ、それほどでもないことは、「相手に譲る」「話し合いで決める」「我慢する」などの方法を使えばよいのではと自分なりに考えたのです。
書く内容の方針が決まって、本人も少しホッとしたようです。
その表情は、本プロジェクトの最終成果物が作文であることを知った授業開始当初とは大きく異なっていました。
どの子も真剣な面持ちで原稿用紙に向かい、鉛筆の音が教室に静かに響きます。プロジェクトのゴールはもう目前です。
※AERAオンライン限定記事
○山田洋文(やまだ・ひろふみ)/1975年生まれ、京都府出身。教育家。神戸大学経済学部卒。独立系SIerのシステムエンジニアを経て、オルタナティブスクール教員に。2016年4月、京都市内でプロジェクト学習に特化した探究塾の探究堂(http://tanqdo.jp/)を開校。探究堂代表、認定NPO法人東京コミュニティスクール理事。