勝訴の判決後、日本外国特派員協会で会見を開いた伊藤詩織さん。同じ場所であった山口氏の会見に、伊藤さんもジャーナリストとして参加した(撮影/編集部・野村昌二)
勝訴の判決後、日本外国特派員協会で会見を開いた伊藤詩織さん。同じ場所であった山口氏の会見に、伊藤さんもジャーナリストとして参加した(撮影/編集部・野村昌二)

 元TBS記者の山口敬之氏が、ジャーナリストの伊藤詩織さんに向けた言葉は、 必死に前を向こうとする被害者たちに向けた刃だ。「偏見」は、なぜ生まれるのか。AERA 2020年1月13日号で掲載された記事を紹介する。

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 性被害者は笑ってはいけないのか。

 ジャーナリストの伊藤詩織さん(30)が、元TBS記者の山口敬之氏(53)からの性暴力被害を訴えた民事訴訟。判決では、伊藤さんの被害が認められ山口氏に330万円の支払いが命じられた。判決から約3時間半後、単独会見を開いた山口氏が言い放った言葉に、唖然とした。

「本当の性被害者は、記者会見の場で笑ったりすることは絶対にない」

 性被害を受けた女性から聞いた話として、そう言った。伊藤さんが記者会見で笑ったことを指し、伊藤さんは被害者ではない、だから自分は違法なことをしていないという理屈だ。

 この発言、ネットなどで非難が相次いだ。

「レイプされた被害者はずっと黙って俯いている事が当然とでも言いたい訳!?」「被害に遭っても頑張って前向きに生きていこうとしている女性に対して、なんて愚かなことを言っているんだと、ただただ腹が立つ」

 判決の翌日、都内の日本外国特派員協会で開かれた山口氏の会見では、ジャーナリストの江川紹子さんがその言葉の真意を問いただしたが、彼はこう言って回答を避けた。

「江川さんにご指示や批判される筋合いはありませんね」

 刑法性犯罪規定の改正に取り組む一般社団法人「Spring」代表理事の山本潤さんは言う。

「二次加害、セカンドレイプだと思いました」

 山本さん自身、13歳から7年間、実父から性暴力を受けてきた。長く苦しい思いをしていた時は、被害を受けながら表に出て活動する人がうらやましく輝いて見え、自分にはできないことだと思うことがあった。だから性被害に遭った人は笑ったりしないのではないか、と誤解する人がいるのはわかるという。

 だが、そういう被害者の苦しく複雑な感情を踏みにじり、「性被害者は笑ったりしない」と言葉にして攻撃するのは、セカンドレイプに等しいと感じている。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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