最初は「見えないのに、こんなのできるわけないよ」と思ったという川嶋。だが、競技に打ち込むほどに、新たな自分の能力が引き出されていったという。今では横9メートルのコートを50センチ刻みにし、どの地点からボールを投げたのか、正確に言い当てることができる。超人的に見える能力だが、川嶋は次のように考えているという。

「よく、見えづらい人は耳がすごくいいとか言われるけど、僕は、全員がその能力を持っているけれども意識して使っていないから、耳が本来持っている聴く力が引き出されていないのかなと思っています。聴く意識を持ち、トレーニングすればいろんなものが聴こえてくる」

 同じ視覚障害者の競技、ブラインドサッカーの川村怜(30)=アクサ生命保険=も同様のことを話していた。

 初めて競技を体験した18歳のときは「どこを向いているかもわからなかった」という川村は今、音で「見る」ことができる。

 ゴールキーパーと、センターライン近くにいる監督、敵のゴール裏にいるガイド、3カ所からの声を基準にして、ピッチの空間を360度イメージして自分の位置や方向を把握する。仲間や敵の声や足音を聴くと、人の姿が浮き上がってくるという。

「聴覚情報は視覚情報と比べて圧倒的に情報量が少ないけど、意識して音や体の感覚を使うことで、必要な音を探し、イメージすることができる。ブラインドサッカーがたくさんの能力を引き出してくれました」

 パラスポーツは、人間の可能性を追求し、その能力を開拓する力も持っている。(編集部・深澤友紀、ライター・島沢優子)

AERA 2019年12月30日号-2020年1月6日合併号より抜粋