「悩みも昔は彼に相談していたんです。でも、そうすると悩みが深刻化してもっと大きく膨らんでしまう。彼に言わないで自分で解決すれば小さく収まる。だから最近はつまんない話は打ち明け合わないようにしています。ただ、ここぞというときは相談します。それで彼の明快なアドバイス一言で解決することもあるんです」

 ありとあらゆる生き物に優しいまなざしを向ける小手鞠さんに不躾ながら、「森の家にはゴキブリは出ないんですか」と尋ねると、ひとしきり笑った後に、「初めて聞かれましたよ。でもいい質問かもしれない」と応じてくれた。

「森にはいません。でも都会にはいます。ニューヨークのゴキブリは日本みたいに羽がツヤツヤじゃないんですよ。だからあんまり抵抗感がないんですけど、日本のゴキブリはどうなんだろう。やっぱりむやみには殺したくないわね」

(ライター・濱野奈美子)

■ブックファースト新宿店の渋谷孝さんのオススメの一冊

『不浄を拭うひと1』は、特殊清掃の経験から、人との繋がりを描いた1冊。ブックファースト新宿店の渋谷孝さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 孤独死──。人生100年時代、健康長寿を謳う日本が抱える社会問題のひとつであり、死後数カ月もたって発見されることなど、しばしばニュースにも登場する。

 その現場に立ち入り、原状復旧をサポートするのがここに登場する「特殊清掃業者」だ。妻子を持ちながらも脱サラしてこの仕事を始めた山田正人(39)が、病死、変死、自殺などの現場となった住居に立ち入って目の当たりにした光景は、遺品に群がる女性たち、あきれるばかりの収集物、ゴミ屋敷、ペットの死骸、風呂場に貼りついた手袋のようなもの……といったさまざまな状態で死を迎えた人びとの「生活の跡」だった。

 数々の特殊清掃の経験から感じ取ったその暮らしぶりや、人との繋がりを淡々と描く異色のコミックから見える現代社会の闇。これは私たち自身の物語なのかもしれない。

AERA 2019年12月16日号