急性膵炎で入院したことがある一人暮らしの会社員男性(52)は、再発しやすい病気ということもあり、自宅の玄関にパジャマと下着を2組ずつとタオル、コップ、スマホの充電器を入れたバッグを常備している。

「救急車を呼んだときに一緒に持って行けるかもしれないし、外出先で倒れても、友人にも『玄関にあるから持ってきてほしい』と頼みやすいと思って」

 一方、「倒れた直後にやること」も重要だ。一人暮らしの場合は特に、食べ終えたままの食器や生ごみに虫がわき、冷蔵庫の食材が腐ることもあるので、処分の依頼が必要。子どもやペットがいる人は、預け先の確保も。ジムの会費やサブスクサービスを放置しておくと、全く使わないのに支払い続けることになるのでチェックも必要だ。

 一人暮らしで入院すると、郵便物の受け取りも一苦労だ。冒頭の女性は入院中に派遣社員の契約期間が切れて、社会保険から国民健康保険、国民年金への切り替えが必要になった。病院から外出許可をもらい、役所の出張所へ行くと、新たな健康保険証の申請はできたが交付は後日、簡易書留を自宅に郵送するとのこと。病院への送付を依頼したが、「居住地以外には送れない」という。委任状を代理人に託せば住所の違う人でも窓口に取りに行けるが、利き手の右手がまひしてうまく書けない。書類一つ受け取るのに、いくつもの壁が立ちはだかった。

 社会福祉士で、JIGコンサルティング代表の玉村公樹さんは言う。

「日本の社会保障制度は家族がケアをする前提で設計されていますが、単身者が増え、核家族化が進み、家族の機能が弱くなってきている中で困る人が増えています。家族のサポートが難しい場合は、良好な友人関係を築いておくことがとても重要です」

 医療現場で患者や家族からの相談を受け、援助を行う専門職「医療ソーシャルワーカー」の団体、東京都医療社会事業協会の藤井かおる理事は、日頃の備えとして、財布には保険証と一緒に今までかかった病気や服用している薬、通院先の病院名のメモを入れるよう助言する。

「病歴は医師が病気を判断するときに大切な情報で、病院名がわかれば詳細を問い合わせることもでき、情報があればより早く、より正しく判断する手がかりになります」

 メモがあれば意識がない場合や、脳梗塞などで言葉の障害が出たときでも病歴を正しく伝えられる。メモはときどき見返し、書き加えていくことも大切だ。(編集部・深澤友紀)

AERA 2019年11月18日号