「老後のために蓄えていた定期預金も崩さずに済みました」

 元気だった人がある日突然、病気や事故、大きなケガなどで働けなくなる──。そんな窮地に追い込まれる事態は誰にでも起こりうる。厚生労働省によれば2016年度の1年間に働き盛りの30~50代が入院したケースは約515万件。1人が何度か入院しているケースもあるので一概には言えないが、およそ10人に1人が入院という事態に直面したことになる。

「もしも」の時、真っ先に浮かぶ不安が「お金」だ。

「日本には労災保険や健康保険、公的年金、雇用保険など病気やケガなどでお金に困った時は何らかの形で助けてくれる公的保障制度がたくさんあります」

と話すのは、『届け出だけでもらえるお金 戻ってくるお金』の監修本などがあるファイナンシャルプランナーの風呂内(ふろうち)亜矢さんだ。「倒れた時にもらえるお金、戻ってくるお金」は、まずは倒れた原因が「仕事」か「それ以外」かで、申請できる制度が分かれる。

「仕事が原因」の場合、治療は労災保険の「療養補償給付」で全国の労災病院などでタダで受けることができる。賃金をもらえない日が4日以上続くと、「休業補償給付」によって給与の80%が支給される。さらに療養から1年6カ月経っても治らなければ、障害の程度によって「傷病補償年金」が給付される。例えば月給30万円で1級だと約480万円もらえる。あまり考えたくないが、障害が残れば「障害補償給付」が支給される。

 一方、「仕事以外の原因」でケガや病気をした時は、冒頭の女性が利用したように「高額療養費制度」や「傷病手当金」が強い味方になる。これ以降は、障害が残り一定の障害状態と認定されれば、国民年金なら「障害基礎年金」、厚生年金なら障害基礎年金に加え「障害厚生年金」を受け取れる可能性がある。

 事態が深刻化して、失業するケースもある。そうなれば、雇用保険から「失業給付(基本手当)」を受け取れる。手続きは近くのハローワークで行う。得られる金額は、前職での賃金や年齢などの条件でかなり上下するが、1日約2千~8千円が目安だ。最低限の生活を維持することが難しくなったら「生活保護」もある。

「お金に困った時には何らかの形で『助け』があるということを信じて、自治体のホームページで探したり窓口で相談したりしてほしい」(風呂内さん)

 誰もが利用できる制度で忘れないでほしいのが「医療費控除」だ。医療費が年10万円を超えると確定申告をすれば税還付を受けられる。会社員にはあまり馴染みがないが、通院で利用したバス、電車、タクシー代など交通費も控除対象。17年分の確定申告からは、特定の市販薬の購入費が年1万2千円を超えると超過分を控除できる「セルフメディケーション税制」も始まった。ただし、と風呂内さん。

「医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。どちらの減税効果が大きいか、額が大きい方を選びましょう」

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年11月18日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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