国立病院機構は本誌に「それぞれの地域のニーズに応じた国立病院の機能を丁寧に説明していく」と回答。統合を一気に加速させる考えはないとした。

 厚労省の地域医療計画課は「公立も公的も地域で一定の同じ役割がある。地域のニーズに合う病床にすることが狙いで、どの病院にどうしろというのは国としてはない」と答えた。

 厚労省の独立行政法人評価の有識者会議メンバーでもある日本総研の河村小百合主席研究員(55)はこう語り、統廃合が地方切り捨てではないと強調した。

「これからは、医療体制と経営の両面で、体力のある国立病院機構が地域の事情に合わせ、最後の砦となり役割を果たす考えもあるのではないか」

 確かに、国立病院機構と市立病院が統合するケースもあるが、今のところ稀だ。青森県弘前市では国立病院機構弘前病院と弘前市立病院とが統合、国立病院機構を運営主体として、22年の開業を目指す。この問題は市長選の争点にもなった。

 病床は約450床で、地域で弘前大学医学部附属病院に次ぐ規模となる予定だ。北海道や東北は特に医師不足に悩む地域だが、地方では症例が少なく、若手医師には不人気という側面がある。中核病院になり患者が増えれば、症例が増える。設備投資も行えば、経験を積みたい医師にとって魅力的になるはずだ。

「国立病院機構が持つ豊富な症例や専門的医療の知識を、津軽地域の医療に生かすことができる」と弘前市の櫻田宏市長(60)は期待を寄せている。

 こうしたケースが増えることが望ましいが、関係者の見方はシビアだ。

 実際、厚労省の幹部職員の一人はこう明かした。

「国立病院機構は理事長に厚労省のキャリア官僚が天下りし、理事も厚労省出身者が複数おり、厚労省の一部のようなもの。『経営状態がよくない病院はお荷物だから、これを契機に国立病院も再編しないと、機構全体の足を引っ張る』という認識が省内にあります」

 前出の上医師も警戒する。

「国鉄だったJRが、不採算路線のローカル線を廃止し、乗降客の多い山手線に機能を集中すると言っているようなもの。事実上の地方医療の切り捨てです。資金が潤沢にある国立病院機構が地方から撤退すれば、自治体の公立病院がその穴埋めをせざるを得なくなります」

 再編要請リストが「命の切り捨て」リストになっていかないか、今後も注視が必要だ。(ライター・井上有紀子)

AERA 2019年11月4日号より抜粋

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