「自衛官の定年は他の仕事に比べ、早い。カジノディーラーなら体力的な負担も少なく、定年後の仕事として長く続けられると思いました」

 ただ、カジノ誕生を歓迎する声は少数派だ。朝日新聞が9月14、15日に実施した世論調査によれば、カジノを含むIRを自分が住む地域に誘致することに対し、賛成が20%、反対が71%だった。ギャンブル依存症の増加や治安悪化を危惧する声が大きい。

 そうした懸念はIR実施法に依存症対策として盛り込まれ、日本人利用客には入場時にマイナンバーカードの提示を求めた上で、「7日間で3回、28日間で10回」という入場回数制を設け、1回6千円の入場料金をとることなどが定められている。

 政府のIR整備対策プロジェクトチーム座長で、公明党の石川博崇参議院議員は「IR実施法案に先行し、ギャンブル等依存症対策基本法も成立させました。これまで対策が打たれなかったパチンコなど、その他のギャンブルへの対策も進みます」と胸を張る。

 だが、依然として反対の声が大きいのは何故なのか。石川参院議員は、

「カジノの規模はIR施設全体の3%以下に制限されることになりますが、カジノばかりが話題となり、IRの必要性については、まだまだ理解が進んでいないのかもしれません」

 IRは国際会議場や展示場などのMICE(マイス)と呼ばれる施設、劇場などの娯楽施設、ホテルやショッピングモール、そしてカジノ施設を含む民間運営の観光施設を指す。多様な施設を統合することで、ビジネスパーソンから子ども連れの家族まで様々な訪日客を呼び込む狙いだ。

 政府は観光振興を成長戦略の柱とし、30年に6千万人とする目標を掲げている。訪日客は年々増加しているが、課題は富裕層の呼び込みだ。外国人観光客の娯楽サービス分野への支出割合は、アメリカやフランスでは10%を超えるが、日本では2.5%にとどまる。ハイグレードな宿泊施設とカジノを含むエンターテインメント施設が一体となったIR施設で、これまで手薄だった夜のコンテンツも増やし、訪日客の消費を促す期待がある。

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