日本カジノ学院では、カナダ、オーストラリアのカジノで働きながら英語を勉強するワーキングホリデーの仲介や、海外カジノなどの就職先の紹介も行っている(撮影/フリーランス記者・澤田晃宏)
日本カジノ学院では、カナダ、オーストラリアのカジノで働きながら英語を勉強するワーキングホリデーの仲介や、海外カジノなどの就職先の紹介も行っている(撮影/フリーランス記者・澤田晃宏)

 訪日外国人誘致の切り札として、政府が国内3カ所で計画するカジノ。治安悪化への不安などから、横浜市では市民による反対運動も起きている。だが専門家は、そもそもカジノに集客力は期待できないと指摘する。フリーランス記者・澤田晃宏氏がその実情を取材した。AERA 2019年10月28日号に掲載された記事を紹介する。

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 慶應義塾大学経済学部3年生の石井智さん(仮名、22)は、今年5月から渋谷・公園通り沿いのビル内にある「日本カジノ学院」へ通い始めた。来年、就職活動が控えている。希望する会社から内定がとれなかったり、期待する待遇が得られなかったりした場合の「保険」を作るためだ。

「今まで日本になかった『新しい職業の誕生』! それがプロのカジノディーラーです」

 同校の看板は、そう謳う。石井さんはカジノディーラーの養成校に通い始めたことを、友人には伝えていない。

「カジノに関心のある大学生はまだまだ少ない。今からカジノディーラーとしての技術を身につけておけば、同世代に差をつけられる。将来的に幹部としてカジノ運営会社に入り、活躍できるのではないかと考えました」

 帝京大学経済学部出身の目代皓太郎さん(24)は、就職活動をせずに、日本カジノ学院に入学した。カジノ自体に興味はなかったが、カジノ業界の未来に魅力を感じていた。入学後に初めてカジノで使われるカードやコインに触れた。目代さんは言う。

「カジノの誕生で生まれる仕事はカジノディーラーだけではありません。将来的にはカジノディーラー養成校の講師や、カジノの不正を見抜くセキュリティー関連の仕事に就きたい。機会があれば海外のカジノでも働きたい」

 2018年7月、カジノを含む統合型リゾート(以下IR)実施法が成立した。刑法の賭博罪に触れるカジノの設置が、国内で最大3カ所認められることになる。基本方針の公表やカジノの規制を担うカジノ管理委員会の設置を経て、来年にも候補地が決定する。早ければ20年代前半にも、日本にカジノが誕生する見込みだ。

 日本カジノ学院の贄田崇矢代表は「16年のIR推進法の成立からカジノへの関心が高まり、生徒数も増えている」と指摘し、こう続けた。

「カジノディーラーを将来の安定職と考え、同じお金を扱う仕事ですが、縮小傾向にある銀行業を辞めて入学してきたり、親に連れられて入学する高校生がいたりします。IR型カジノ1カ所あたり、1千~3千人程度のディーラー、スタッフが必要になります」

 同校は15年に開校。現在は全国に7校展開し、卒業生を含め約800人が学ぶ。バカラ、ブラックジャック、ルーレット、ポーカーの基本を学ぶトータル本科コース(55万円/102・5時間)のほか、海外のカジノ研修がついたコースもある。

 生徒の年齢層は幅広い。海上自衛官の女性(46)は、昨年9月に入学した。IR実施法案成立のニュースでカジノに興味を持ち、カジノについて調べるうちに、ディーラーという仕事があることを知った。

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