ビノシュ:私は、これは是枝さんの映画だと思いますね。まさに是枝式だなと。

是枝:(海外に出なければというような)使命感はまったくないです。今回はビノシュさんに誘われたのがきっかけで、以前フランソワ・オゾン監督にも「君はフランスで撮るとうまくいくよ」とおだてられたので木に登った。求められない限り、やっぱり映画は撮れないので。

ビノシュ:フランスでもう一度撮ろうと思いますか?

是枝:もう二度と外国では撮らない、とはまったく思ってないですね。言語の壁はそれほど問題ではないというか、いろいろなお膳立てが必要ですが、それさえクリアできれば越えられるかなという気はしています。

 映画ではドヌーヴ演じる老女優が、「スクリーンでの戦いに負けた女優が政治やチャリティーに手を出すのよ」と憎まれ口を叩く。だが、二人とも政治や社会への発言は積極的に見える。

ビノシュ:私の女優人生が下り坂だと言いたいのかな? (笑)いえいえ、女優はパブリックパーソン(公的な存在)ですから、支援すべきところは支援しないと。黄色いベスト運動は暴力も出てきたので全面的に支持すべきとは思わないけれど、毎日一生懸命働いているのに生活に苦労している人たちを支援するのは大事なことだと思って、支持表明しました。フランス人としてきちんと考えないと。

是枝:日本ではごく一部ですが、監督や役者が政治的な発言をしたり、デモに参加したりするのを否定的にとらえる人がいます。企業がコマーシャルに使わなくなるぞと脅しがかかったり、映画監督なら映画だけ撮っていろと批判されたりするんです。

ビノシュ:でも、これは政治というよりも、ヒューマニティー、つまり人間の問題ですよね。老若男女問わず、すべての人が社会と関わっている。見ないふりするのではなくて、不正や問題を認識し、次世代につなげていく必要があります。たとえば環境問題なら、気候変動の速度に意識改革が追いついてない。権力者が法制度を変えないなら一般の人たちが意見を言って変えていかないと。最近、環境問題でデモを始めた若い世代に希望を感じています。

是枝:まったく賛成です。映画を作る行為も含めて、日々生きていること自体が政治的なことだと思うんです。パブリックパーソンという考え方は、あまり日本では定着してないんです。いま日本で大事なのは、権力に利用されないこと。明らかに取り込もうとしてくるから、ノーと言い続けることだと思います。おっしゃるとおり、政治の話ではなく、人間の話なんですよね。

(ライター・鈴木あずき)

AERA 2019年10月21日号