でも、悪天候のせいで子どもや先生たちが事故にでもあったら大ごとです。人命優先という倫理観はもちろん、親に訴訟されたらかなわん、という実利的な理由も園にはあるでしょう。アメリカの園・学校の先生というのはたいへん低賃金な職業です。「こんなに少ない見返りで子どもの命まで責任もっていられるかい」というのが本音だと思います。親としては「ごもっとも」とうなずき、粛々と迎えにいくしかありません。

 日本でも、賃金が安くて保育士さんたちが集まらない、ということが社会問題になっています。それなのに、大型台風のなかで尊い子どもの命を預かり、自らの命も危険にさらさなければならない。そんな重責にはそれなりの見返りを、という方向に変えるのも大切ですが、今のところは「こんなに少ない見返りで子どもの命まで責任もっていられるかい」と、きっぱり園を閉めてしまうのが早いんじゃないかと思います。

 保育園が閉まっていたら、親も仕事を休むしかありません。小学校が休めるのだとしたら、それに準じてもよさそうです。現状では、「保育園が開いているから預けて出社しなければならない」という声もあります。

 わたし自身、日本で働いていたときは、天気が悪くても「とりあえず出社しよう」と考えるタイプでした。2011年の東日本大震災があったときも、「なにがどうなっているかわからないから、とりあえず会社に向かおう」と渋谷のバス停で長蛇の列に並んだ口です。そんな日本(というか東京か?)で暮らしていたので、いきなりアメリカ風の「とりあえず休もう」思考にシフトするのが難しいことは重々承知しているんですが、太平洋の向こう側には「雨風がひどくなる前にすぐ休む」という文化があることを知ると、少し休みやすくなったりはしませんでしょうか。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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