西野嘉憲(にしの・よしのり)/写真家。1969年、大阪府生まれ。早稲田大学を卒業後、広告制作会社勤務を経て独立。漁業や狩猟など人と自然の関わりを主なテーマに撮り続ける。9月11日までキヤノンギャラリー大阪・中之島で写真展「海人三郎」を開催(最終日は15時まで)(撮影/今村拓馬)
西野嘉憲(にしの・よしのり)/写真家。1969年、大阪府生まれ。早稲田大学を卒業後、広告制作会社勤務を経て独立。漁業や狩猟など人と自然の関わりを主なテーマに撮り続ける。9月11日までキヤノンギャラリー大阪・中之島で写真展「海人三郎」を開催(最終日は15時まで)(撮影/今村拓馬)

 本書は、石垣島在住の写真家が20年にわたり撮影した海人たちの記録。長い銛一本を手に魚と格闘する様子や追い込み網漁など多様性に富んだ八重山の漁業や島の伝統行事などを収録している。写真家の西野さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 5メートルを超す銛(もり)を手にした漁師が自分の体ほどもある巨大な魚に馬乗りになって格闘している。ページいっぱいに写し出された海中写真を見ていると、こちらも海の中で迫力ある漁を見ているような錯覚を覚える。素潜り漁や追い込み網漁、かつおの一本釣り、まぐろのひき縄など、20年かけて代々受け継がれてきた島の多様性に富む漁を記録した。海人(うみんちゅ)とは、沖縄の言葉で漁師のことだ。

 大学時代にカメラを始めた西野嘉憲さん(49)は、昆虫を撮るために石垣島の農家の家に泊めてもらったとき、彼らの自然を読む力に驚かされた。人と自然の関わりをテーマに撮りたいと思った。

 漁師を撮り始めたのは2000年から。当時は都内の広告制作会社に勤務し、休暇のたびに島に通った。最初はウミガメの素潜り漁に同行した。当時60歳の漁師が100キロを超えるウミガメを生け捕りにする姿に震え、海人を追いかけようと決めたが、多くの海人からは「漁の邪魔になる」と厄介払いされた。そこで島に移住し、オリオンビールや泡盛を手に漁師の家に行き、ひたすら頼み込んだ。船の前で待つこともあった。漁の邪魔にならないよう、ダイビングのライセンスも取り、潜水技術を磨いた。

「船に乗せてもらうために漁の仕事も覚えて、網をたぐり、ロープを縛って。海から上がってくる漁師たち5人分の煙草に火をつけて渡すとか、下っ端がやるような仕事は全部やりました」

 船を降りた後も、毎日のように海人の家に通い、伝統行事や祝いの席にも顔を出し、信頼関係を築いた。

 荒々しい海の上で「来るんじゃなかった」と後悔したこともある。激流の海底で必死に岩をつかんでいたときには頭に家族の顔が思い浮かび、「もうダメかも」と覚悟した。

 それでも、ファインダー越しに見る大自然と対峙する漁師たちの姿に、胸が躍った。

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