「エンジニアは個人の技量で給与が決まることが多い業種ですが、新しい技術に専門性がある人材は希少価値が高く、従来の給与レンジでは採用できません。そこに高い年収を出すと宣言するだけで話題になる点も、企業としては見逃せないですね」

 注目は、前述のようなAI人材だ。

「数年前はビッグデータ人材がブームでしたが、今はAIを学んだ学生に高年収を提示する企業が増えています。新技術は既存社員のスキルセットとは違うことが多いので、新卒でも高年収で迎え入れようという意識が強くなります」(泉澤さん)

そんな新卒高年収の波は、飲食業界にも及んだ。

「インパクトはありました。来年もこの募集枠があるなら、応募すると思います」

 早稲田大学3年の男子学生(20)が話題にするのは、回転ずし大手、くら寿司の新たな採用枠だ。同社では毎年100人単位で募集している新卒採用とは別に、「エグゼクティブ新卒採用」と名付けた幹部候補生の募集を始めた。初年度年収1千万円で、10人を採用するという。応募にはTOEIC800点以上、簿記3級以上が必要だが、男子学生は「特に難しくない」と言い、こう続ける。

「僕は簿記は持っていませんが、1カ月勉強すれば受かる自信はあるし、TOEICは基準を満たしています。もともと経営コンサル志望で簿記の勉強は無駄にならないと思うので、資格は取っておくつもりです」

 有価証券報告書によると、同社の平均年収は約450万円。幹部候補生は新卒ながら倍以上の額を受け取ることになる。広報宣伝部の岡本浩之さんは、その狙いを説明する。

「採りたいのは海外展開の戦略を立てられる人材です。これまでも中途採用で探してきましたが、新卒でも意欲・能力を持った学生がいるのではと思い、募集を始めました」

 どんな資質が必要なのか。

「問題の本質を見抜いて解決策を考えるスキル、すぐにでも海外で活躍したいという意欲、周りからのプレッシャーにつぶされないメンタルを持った学生ですね。自分のポテンシャルをどう使いこなしてくれるんだ?とこちらを品定めするくらいの自信が必要です」(岡本さん)

 今は20年4月入社に向けたエントリー期間中だが、上位大学の学生を中心に多数の応募があるという。(編集部・川口穣)

AERA 2019年8月5日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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