「春樹さんは自分の文章の先生はジャズだとよく言っています。リズムとハーモニーとインプロヴィゼーションが大事だと。その三つを大事にしたイベントでした」(延江さん)

 入場を待つ列に並ぶ幸運なリスナーたちの表情は、一様に華やいでいた。カップルや子ども連れなどでにぎわうホワイエには、村上さん自身が撮影した書斎の写真が飾られ、バーカウンターでは無料でウイスキーやワインがふるまわれた。村上さんの本の装丁でおなじみの、フジモトマサルさんのキャラクターを使用したフォトフレームの記念写真のプレゼントもあった。

 18時30分、村上さんの登場によりイベントが始まった。

「すごいメンバーが今日集まってくれたので、素敵な夜になると思います。どうぞ楽しんでください」(村上さん)

 めったに公の場に姿を現さない村上さんを前に、観客はやや緊張気味に見える。しかし村上さんは終始、舞台下手のDJブース前で語り、“主役は音楽”という立ち位置。このライブを一音楽ファンとしても、心から楽しんでいる様子だった。(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年7月15日号より抜粋