山崎エリナ(やまさき・えりな)/写真家。神戸市出身。1995年渡仏、パリを拠点に世界中を撮影。帰国後、国内外で写真展を多数開催。写真集に『アイスランドブルー』『サウダージ』『アンブラッセ』『三峯神社』など(撮影/写真部・小黒冴夏)
山崎エリナ(やまさき・えりな)/写真家。神戸市出身。1995年渡仏、パリを拠点に世界中を撮影。帰国後、国内外で写真展を多数開催。写真集に『アイスランドブルー』『サウダージ』『アンブラッセ』『三峯神社』など(撮影/写真部・小黒冴夏)
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 山崎エリナさんによる『インフラメンテナンス日本列島365日、道路はこうして守られている』は、暮らしや流通・経済活動に大きな影響を及ぼす道路の現場の様子を、美しいビジュアルと文章で伝える写真集。山崎さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 フランス、ブラジル、アイスランドにモンゴル……。「世界を旅する写真家」山崎エリナさんがこれまでに訪れた国は40カ国にものぼる。常に旅とともにあった山崎さんが、新たに挑んだ撮影場所は、旅からは一線を画すインフラメンテナンス(補修工事)の現場だった。

「私の写真集に、ある女性の帰郷を切り取った『「ただいま」「おかえり」』という作品があるのですが、それを見た福島県の建設会社の社長さんから『こんな物語性のある作品を撮る方に現場を撮影してほしい』と声をかけていただいたのがきっかけです。最初はインフラメンテナンスと言われても何もわからなくて『一回行ってみます』と軽い気持ちでした。ところが現場を支える“人”に魅せられて、いつしかルーティンに。2017年の秋から福島に毎月通っています」

 日本列島に縦横に張り巡らされた道路網は総延長にすると、なんと地球32周分。その多くが高度経済成長期に造られたため、老朽化の時期を迎えているという。山崎さんは、そんな日本が抱える道路インフラの老朽化問題に光を当て、その道路を守る人々の姿を写真に収めた。

「現場を撮り始めて半年後に、福島で写真展を開催したのですが、そこで『こうやって道路を守ってくれていたんですね』と涙を流す方にたくさん出会いました」

 撮影開始当初は写真集出版の予定はなかったというが、この写真展の反響の大きさから発売が決定。さらには多くの書店が本書に心動かされ、店内でのパネル展を開催した。そのうちの一つである都内の大型書店では、本書がベストセラーランキングの総合1位に輝いたこともある。

「これまで、あまり人と向き合った写真はなかったんです。どちらかというと、自分の思いの中の世界が写真に写し込まれているという作風でした。今回、私は現場で働く人たちのひたむきな姿に引き込まれて、必然的に人を撮ることになったんです。最初は『え、なんで写真を撮っているの?』と思っていた現場の方も、何度も現場に通ううちに、みんなが受け入れてくれたという瞬間があって。仲間のひとりとして迎えてくれるようになりました」

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