だが、現地では、空援隊が遺骨を買い集めているなどの情報や、先祖の骨が大量に盗まれる被害が報告されるなど、トラブルが相次いで発覚。私はフィリピンに飛んで証言を集め、10年3月、週刊文春に「フィリピン人の骨が千鳥ヶ淵に埋められる!?」という記事を執筆した。

 約半年後の同年10月、NHKが検証番組を放映し、追いかける形で新聞各紙や民放各局が次々にこの疑惑を報じた。これを受け、厚労省はフィリピンへの遺骨収集派遣を中断。約1年後の11年10月5日の検証報告書で事業の大幅見直しを発表した。宣誓供述書の廃止や遺骨への対価の支払いをしないことを徹底することなどが検証報告書の概要であり、事業再開にあたってはフィリピン政府との間に必要な覚書を締結すると定めたものだった。

●“日本人の遺骨なし”を厚労省は7年後に公表した

 いっぽう、「検証」結果としては、フィリピンで発生した盗骨事件と遺骨帰還事業とを関連づける具体的な証言は確認されず、宣誓供述書の内容が虚偽だったことは確認されなかった、などと玉虫色の報告にとどめていた。

 厚労省がフィリピンでの遺骨収集事業の再開を発表したのは、18年5月8日のことだ。8月31日には、唐突に「フィリピン国内に保管している遺骨のDNA鑑定結果について」とする表題の報道文をリリース、三つの調査機関に依頼した遺骨の鑑定結果を公開した。報告から約7年も隠蔽(いんぺい)していた結果を公表したのは、2週間前のNHKのスクープがきっかけだ。

 NHKが独自ネタとして「戦没者遺骨“日本人の遺骨なし”鑑定結果を公表せず 厚労省」と報じたのは、8月16日の夜7時のニュースだ。厚労省が鑑定を委託した3人のうち、山梨大学の安達登教授ら2人の専門家が「日本人と見られる遺骨は一つもなかった」とする結果をまとめていたと伝えた。同省が現地で保管されていた311体の遺骨を三つに分けて別々の専門家に鑑定を委託、うち1人の鑑定をもとに11年10月「フィリピン人と見られる遺骨が半数近く混入していたが、日本人と見られる遺骨も含まれていた」とする検証報告書を公表したことに触れ、安達教授のコメントをこう伝えている。

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