●戦艦大和に眠る遺骨を遺族に返せるかもしれない

 フィリピンで遺骨収集を行った空援隊には、一時40人以上の現職国会議員が超党派で顧問議員団(会長、阿部知子衆院議員)を形成していた。顧問として群がっていた国会議員たちは、現在ホームページ上からも名前が消えている。阿部知子氏の議員会館事務所に取材を申し入れるとともに詳細な質問状を送ったが、締め切り日までに回答はなかった。

 空援隊からは、8項目の質問に対して詳細な回答があった。基本的に、遺骨は現地で厚労省職員に引き渡しており、サポートをしていたに過ぎず、その厚労省が独自に持ち帰って鑑定されたものに関して意見はない、というスタンスだ。質問状と回答全文は空援隊のホームページにアップされているので、読者にはご参考いただきたい。

 厚労省は昨年10月に調査団を派遣し、日本兵のものと思われる遺留品と一緒に発見された8検体をDNA鑑定のために日本に持ち帰るとした。

 この間、空援隊はNHKを相手に訂正・謝罪放送などを求める民事訴訟を起こし、上告審まで争ったが、敗訴が確定。厚労省に対しては立て替え金の請求と遺骨の返還を求める2件を東京地裁に提訴し、和解している。

「国の責務として一柱でも多くの御遺骨を収集し、御遺族のもとにお届けしたいと考えております」

 堂々巡りの末に混乱を重ね、遺骨を収集する手法を見いだしてもいないのに、厚労省はこう繰り返すだけだ。

 前出の遺伝学研究所の斎藤教授は、鹿児島県沖270キロで米軍の攻撃を受け、水深約350メートルの海底に沈没した戦艦大和に注目している。乗組員約3千人のうち救助されたのは276人だけで、多くが沈没したままの艦内に眠っているとみられる。斎藤教授は言う。

「ロボット潜航艇を使ってサンプリングできれば、DNAを抽出できる。大和は乗組員名簿もありますから、照合してご遺族にお返しすることも可能になるはずです。国内で唯一地上戦があった沖縄でも、まだたくさんの遺骨が眠っていて、これも核DNAを用いて遺族と照合すればわかります。遺族を特定してお返しできる遺骨の収集こそ、国の責務でやるべき仕事と思います」

(編集部・大平誠)

AERA 2019年5月20日号