この動画をYouTubeで発表すると、大きな反響が起こる。コメント欄には「嘘つき」などの批判やデザキさんの個人情報を暴く書き込みが並んだ。そこで「ネトウヨ」の存在を知ったデザキさんは、彼らが慰安婦やその支援者に対しても同様の攻撃をしていることを知る。慰安婦問題の論点を洗い出し、この問題を知るための「入り口」になるような映画を作ろうと決意、16年から制作に着手した。

 さまざまな主張を聞く中で、デザキさんの立ち位置は何度も揺れ動いた。慰安婦を「売春婦」と明記した米国戦争情報局文書の存在、慰安婦の数とされる「20万人」の根拠……いったい何が正しいのか、わからなくなったという。

「自分がこんなに混乱してるのに、見る人にとって筋の通った映画にできるだろうかと、不安になりました」

 だがすべての取材が終わり、部屋に閉じこもって3カ月かけて編集作業をするなかで、デザキさんの立ち位置は揺るぎないものになる。

「正反対の主張を、項目ごとに並べ合わせて編集していく過程で、どちらの主張の論理が通っているか、はっきりしてきたんです」

「主戦場」というタイトルには、映画を見る人にも、当事者として議論の渦中へ入ってほしい、という思いが込められている。

「人間はわかりやすい結論に飛びつきがちです。でもあえて迷って、深く考えて、『答え』にたどり着く第一歩にしてくれたら。とくに若い人に、そう伝えたいです」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2019年4月29日-2019年5月6日合併号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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