片山さんは、「まったく僕にはなかった発想です」と感心しきり。会の最後、各自が自分の目標を書く際には「一人旅する時期を決めて、準備を始める」と大きな字でしたためた。

 聞けば片山さんはタニモクに参加するのは今回が2回目。

「実を言うと最初はかなり懐疑的でした。僕も企業研修に関わった経験があるのですが、目標設定は普通は何日もかけてやるもの。それをタニモクでは1人あたりたったの30分でやると聞いて、どうせ大したことないだろうと」(片山さん)

 ところが実際にやってみると、いくつもの気づきがあった。当時はマーケティング職で転職したばかり。もともと遠慮がちな性格で、あまり自分を出すことができないことに悩んでいた。そんな時、タニモクで提案されたのは「俺の俺による俺のためのマーケティングをやること」。

その目標を素直に掲げてみたところ、仕事への向き合い方が劇的に変わったという。

「40歳を手前に、次のステップに進むなら一本軸があったほうがいいなと。それを考えるのに、タニモクはすごく役に立ちます。他の人のアイデアを聞くことで、選択肢も広がる」(同)

 三石さんらがタニモクを始めたのは2017年。SNSを中心に評判となり、18年秋からはホームページで手法を公開。企業などからも問い合わせが殺到している。参加者同士が半年後や1年後に再会し、目標の進捗状況を報告し合うケースも多い。タニモクが人間関係の生まれる場として一役買っているのだ。

 官庁や大企業を渡り歩き、広報の分野でキャリアを築いてきた佐賀晶子さん(39)は2年前、ベンチャーへの転職話を持ちかけられ、悩んでいた。そこで相談相手としてふと浮かんだのが、以前タニモクで同じテーブルだった納富順一さん(41)だった。

「私はどちらかというと思いが高じて暴走するタイプ。でもタニモクで納富さんは『そんなに焦らなくてもいいよ』とブレーキをかけるような立場で話をしてくれました。それが印象に残っていて、転職についてもフラットな意見を聞けるかもと思ったんです」(佐賀さん)

 信頼の置ける納富さんに、今回は背中を押された。佐賀さんは転職し、もう一社を経て今年2月、フリーランスのPRプランナーとして独立。いまでは納富さんが代表理事を務めるNPO法人「キャリア解放区」の広報もプロとして手伝う仲だ。

 佐賀さんはタニモクにハマり、これまでに5~6回参加。連絡を取り合う人が10人以上いる。

「タニモクに来る人たちは傾聴が上手なので、お互い安心して自己開示ができる。時間は短くてもすごく心の深いところで繋がれる気がします。人の目標を立てること自体、純粋に面白いですし、他の人に思い切ったことを言っていると自分までポジティブになれます。また折を見て参加したいですね」(同)

(編集部・石臥薫子)

AERA 2019年4月22日号