他人に目標を立ててもらうからこそ、自分の思考の枠を超えた発想が生まれる。片山聖さんは「一人旅」という提案にハッとさせられた(撮影/編集部・石臥薫子)
他人に目標を立ててもらうからこそ、自分の思考の枠を超えた発想が生まれる。片山聖さんは「一人旅」という提案にハッとさせられた(撮影/編集部・石臥薫子)
佐賀晶子さん(39、左):「タニモク」のリピーター。PRプランナーとして独立できたのも「納富さん含めタニモクで出会った人たちに背中を押してもらえたから」/納富順一さん(41):NPO法人「キャリア解放区」代表理事。佐賀さんとはタニモクをきっかけに仕事仲間に。「赤の他人のほうが自己開示しやすい。面白いですね」(写真:佐賀晶子さん提供)
佐賀晶子さん(39、左):「タニモク」のリピーター。PRプランナーとして独立できたのも「納富さん含めタニモクで出会った人たちに背中を押してもらえたから」/納富順一さん(41):NPO法人「キャリア解放区」代表理事。佐賀さんとはタニモクをきっかけに仕事仲間に。「赤の他人のほうが自己開示しやすい。面白いですね」(写真:佐賀晶子さん提供)
タニモクの進め方とコツ(AERA 2019年4月22日号より)
タニモクの進め方とコツ(AERA 2019年4月22日号より)

 他人同士で目標を立て合うという不思議な ワークショップ「タニモク」が、密かに人気だ。キャリアに悩むビジネスパーソンがハマる理由はどこにあるのか。 

【タニモクの進め方とコツはこちら】

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 平日の夜6時半。都内のとあるオフィス街の一室に20代から40代と思しき男女が続々と集まってきた。その数、ざっと100人。全員初対面で、若干ぎこちない雰囲気が漂う。4人1組でテーブルに着席すると、会場に大きな声が響き渡る。

「それでは皆さん、ご自分のいまの状況をまず絵に起こしてください。下手でも全然構いませんから、文字ではなく絵でお願いします」

 いきなり「絵を描いて」という指示に目を丸くする人、苦渋の表情で天を仰ぐ人──。謎のお絵かきから始まったこのイベントは、人材サービスのパーソルキャリアが開発したワークショップ「タニモク」だ。

 同社が運営するメディア「“未来を変える”プロジェクト」編集長の三石原士(みついしもとし)さんが中心になって考案したもので、この日のファシリテーターも三石さんだ。

 ワークショップの趣旨は「他人に目標を立ててもらう」こと。だから、タニモク。だが、目標なんて立てたい人が勝手に立てれば良さそうなもの。なのに、なぜわざわざ赤の他人が集まって「目標の立て合い」なんてことをやっているのか。

「参加者の多くはキャリアに悩む20代後半からのビジネスパーソンです。働き方の選択肢は増えていますが、その分、皆さん不安なんです」

 と三石さん。悩めるビジネスパーソンが、新たな挑戦をするには「いい目標設定」が必要だが、自分で目標を立てることには限界があるという。

「人は自分に関してはどうしても慎重になりがちです。目標が実現しないというリスクを無意識に避けようとしますから。しかも自分の頭だけだと、思考の範囲も限られる」(三石さん)

 ところが、人はいざ他人のこととなると、リスクを考える必要がないので、より冒険的な気持ちになれるのだそう。自身による目標設定の「限界」を超えるために、他人の頭脳と無責任さを利用しよう──。タニモクはそんな発想から生まれた。

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