“座り過ぎ大国”ニッポンに忍び寄るリスクはまだある。体の不調にとどまらず、病を生み命にかかわることもわかってきたのだ。
1日11時間以上座る人は死亡リスクが40%アップする──。
12年、シドニー大学が中心になって行った調査結果が、世界中に衝撃を与えた。調査は、オーストラリア国内の45歳以上の男女22万人を3年近くにわたり追跡し、期間中に亡くなった人たちの生活スタイルを調べた。すると1日に座っている時間が4時間未満の成人と比べ、1日8~11時間座る人は15%、11時間以上だと40%も死亡リスクが高まるという。他にも、座りすぎによって大腸がんは30%、乳がんは17%も罹患リスクが上がるなどの研究結果も報告されている。
一体なぜ、「座る」というごくありふれた行動が死のリスクを高め、がんを招くのか。
座り続けることの危険性に警鐘を鳴らし、『「座りすぎ」が寿命を縮める』(大修館書店)などの著書もある早稲田大学の岡浩一朗教授(健康行動科学)はこう説明する。
「人間の下肢には70%近くの筋肉が集中しています。とくに、太ももの筋肉は体の中で最も大きく、血中の糖の取り込みや脂肪の分解に重要な役割を果たしています。しかし、座りっぱなしで筋肉を動かさないと、血液中の糖を筋肉に取り込む働きが鈍くなり、代謝を悪化させます。また、ふくらはぎは『第2の心臓』とも呼ばれ、足に下りた血液を心臓にまで押し上げて戻すポンプの働きがある。それが座ったままでいると、血流が悪化した状態になり、血液を心臓に戻しにくくなります。座り過ぎは毎日エコノミークラス症候群になっているようなものです」
こうした生活習慣が長期にわたれば、肥満や糖尿病、高血圧、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞など多岐にわたる健康リスクを引き起こし、死亡リスクを高めると考えられているという。
座り過ぎからがんになるメカニズムは明確には解明されていないが、岡教授は、血流や代謝の悪化とともに免疫力が低下し、その結果、がんになるリスクが高まるのではないかと見る。