「“みんな同じ思いを持っている同一線上のひとりだよ”と言ってくれた。楽になりました」

 自分も青い鯉のぼりから力をもらった。そんな原点を思い出した。

 鯉のぼりは年々増え、去年はおよそ1800匹に。大曲浜の人が多く住む集団移転地でも全戸に配った。ほとんどの家が軒先に飾ってくれる。当初は大曲浜に近づくのがつらいと言っていた人もイベントを手伝う。今年も鯉のぼりを空に掲げ、天国まで聞こえるように太鼓を打つ。

 伊藤さんはいま、東松島市の市職員としても働く。復興に向けて急ピッチで街の姿が変わるなかで、街をつくる側にいたいと考えたからだ。今は税務課で土地の評価などを担当する。法律でルールが決められているが、ルールの狭間で苦しむ人もいる。

「市民の方々の思いをくみ取りながら、街づくりを通して自分も未来に進んでいきたいです」

(編集部・川口穣)

AERA 2019年3月11日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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