●世間でありふれている悩み、私たちに見せてくれた

 やはり雅子さまのご病気が大きい。04年に「適応障害」という病名が発表されて以来、ずっと闘病している雅子さま。このところ活動の幅がぐっと広がっているものの、姿をあまり見ることができない期間が長かった。

 もちろん皇太子さまが単独で公務に励んでいたことは承知している。だが、お二人揃っての活動となると、「愛子さまへの対応」という印象が強い。

 愛子さま(17)は10年、学習院初等科2年の時に不登校になった。そのため雅子さまは付き添い登校を懸命にし、雅子さまの体調が悪い時は皇太子さまが代わった。愛子さまが4年生になった夏、「校外学習」2泊3日の全行程に雅子さまが付き添い、大バッシングを招いたこともあった。

 愛子さまは中等科でも不登校になり、15歳のお誕生日に公開された写真は、面変わりするほど痩せていた。高等科に入ってからお元気になり、元の体形に戻っているが、生きづらそうな少女ではないかと勝手に心配している。

 最近、『美智子さまという奇跡』という本を上梓した。初の民間出身の皇太子妃として皇室に嫁ぎ、翌年には男の子を出産、平成になってからは陛下と二人三脚で公務の数々をこなす。

 そのようなことが「当たり前」にできた美智子さまは奇跡で、その人を得たのは皇室にとって奇跡なのだと書いた。だからこれからの皇室を考える時、美智子さまを「規格」としてはいけない。だってたびたび起こらないから奇跡を奇跡というのだ、と。

 これからの皇室を考える時、キーワードは「ありのまま」ではないか。「皇室らしさ」ではなく、「それぞれらしさ」を国民が認めていくことだと思う。

 平成の皇太子さまと雅子さまは、世間ではありふれている悩みと闘う姿を私たちに見せてくれた。心の病、不登校、どれも人ごとでない。

 ほかにも陛下と美智子さまより下の世代を見るにつけ、私たちと地続きな世界で生きている人たちで構成されているのが今の皇室だと思う。

 そのような皇室と、どう向き合っていくのか。それがいま、問われているのではないだろうか。

 少子高齢化という問題は、実は皇室にも大いに関係している。皇太子さまの下の世代の皇位継承者は、秋篠宮家の長男悠仁さま(12)しかいないのだ。

「ありのまま」の人々が構成する皇室のこれから。国民一人ひとりが考えねばならないと思う。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2019年3月11日号

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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