相手を尊敬し、チャレンジャーとして対戦する場合、普通は一球ごとに気合を入れ直したり、自分を鼓舞したり、できるだけ心がポジティブになれるようにするものです。ところがポイントを取ろうが取られようが、感情を封じ込めて無に徹することで自分を取り戻した。そんな心のリセットの仕方をする選手を初めて見ました。誰がやってもなかなか効果が出ない方法だと思いますが、大坂なおみバージョンともいうべき見事な「適応力」です。

 大坂なおみ時代到来と言ってもいいのか。

 かつて1強を誇ったセレナ時代のようなレベルには、まだならないと思います。なおみさんは心のアップダウンが元来激しく、それが一気に安定するというわけではない。しかし、これから経験を積み重ねることで、セレナのように世界一を継続して、この人にはもう敵わないという選手になる可能性は秘めています。

 残るGSの全仏のコートはクレー、全英は芝で、全米や全豪ともサーフェス(表面)が違い、克服する課題もある。クレーはボールを上からきちんとたたき、ラリーを繋ぐスピン系のボールが必要です。芝は、イレギュラーバウンドへの対応が難しい。しかし、彼女はいずれにも適応する力を既に身につけています。けがさえしなければ、GS全制覇は時間の問題。さらに何年もトップをキープするレベルに到達できるはずです。セレナ以来、本当に久しぶりに現れたスーパースター。世界のテニスファンの間では、なおみさんは待望の宝石になりつつあるのです。(文中一部敬称略)

(構成/編集部・大平誠)

※AERA 2019年2月11日号