──同時並行して探求していった感じですか?

 そうですね。昔からヒップホップは好きだったんですけど、それが世界的な音楽シーンの中でどんどんパーソナルなものになっていて、聴いてパーティーで盛り上がるものというより、個人の思いを伝える手段になってきた気がして。それは自分がやりたい新しいサウンドの方向性とも、新しい歌詞の方向性とも繋がるものだったんです。すなわちそれが現在の音楽になるんじゃないかという予感とともに、曲作りをしていきましたね。

──感情や感覚を言葉にしていこうという歌詞の変化は、いつ頃自覚しましたか?

 一昨年のシングル「恋」辺りからです。“恋”という気持ちを、自分のエピソードとは切り離して、言葉にしていくなかで、そういった歌詞を書くことが楽しくなっていったような気がします。同時に、世の中のひどさや人間のグロテスクな面に触れて、精神が不安定になったりして、日常では自分の感情に蓋をしようと思っていったんですね。でも次第にパンクしそうになっていって、その思いを吐き出したいというか、作品にしたいという欲が出てきたんじゃないかなって。かといって、わめき散らすようなことはカッコ悪いので、どうすればそれを面白いポップスにできるのか、試行錯誤して最初にできたのが「アイデア」という曲です。今年8月に「アイデア」を発表して、その部分をすごく喜んでもらえた感じがしたので、じゃあこの方向性を突き詰めていけばいいんだなって。変態的な曲だと思うんですけど。

──まあ、一筋縄ではいかない曲でしたよね(笑)。通常のポップスとは違って、複雑な展開を持った曲で。

 だからもっとどろどろしたアルバムになるのかなって、その頃は思ってたんです。なのにできあがってみたら、ラブソングが多かったという謎の展開(笑)。自分でも、なんでこんなにラブソングが多いんだろうって、すごく不思議です。

──まず感情や感覚を歌詞にする過程があって、それはきっと自分の内面を掘り下げていくようなものだったんですよね?

 深いところに潜っていくような感覚はありました。でも自分の感情を表に出せばいいわけではなく、やっぱりポップスとして楽しんでもらいたいんですよね。僕自身のエピソードを書くのではなく、僕という人間を音にする、擬人化じゃなくて擬音化?そんな言葉はないですけど(笑)その圧縮作業だったと思います。ZIPファイルにするっていう(笑)。圧縮したものが聴く人のなかで解凍されて、その人の花が咲く。それが歌詞や音楽の面白さなので、独りよがりなものでは駄目なんですよね。そうでないところへ辿り着くまでが、ちょっと大変でした。

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