そんなホワイトハウスの内情を描写した暴露本『FEAR(訳書名・恐怖の男)』で、コーン前国家経済会議議長の言葉が紹介されている。

「あまりにも異常で混乱が激しく、いつまで政権にいられるか自信がない。現実的で意味あるブリーフィングをしても、大統領が聞く耳を持つことは絶対にない。最初から結論ありきだ」

 同盟国との連帯や国際的な枠組みの尊重を訴えてきたコーン前議長やティラーソン前国務長官、マティス国防長官がたびたび直面した問題だった。それならば、と3者は時に協力し、大統領が求める文書の作成にわざと時間をかけたり、合同で企画した会議で大統領を囲い込んだりして、過剰な自国優先政策を阻止しようと躍起になってきた。

 一方で、特に保護主義路線を推進するロス商務長官やナバロ通商担当補佐官は、国際協調派を排除した形で大統領と個別に政策を練ったり、大統領執務室にアポなしで自由に行き来したりした。ムニューシン財務長官は国際協調派に近寄ったり離れたりしながら、最後はトランプ大統領の言いなりだ。家族であることを武器とする長女イバンカ夫妻は、さらに自由な振る舞いを黙認されている。

 それぞれが独断で行動することが当たり前になって、ホワイトハウスの秩序は完全に崩壊。全てを管理する権限を持ち、ホワイトハウスで最も重職であるはずの首席補佐官の存在は軽視され、プリーバス氏に代わって首席補佐官についていたケリー氏も年内で辞任する。そんな首席補佐官には誰もなろうとはせず、ケリー氏の後任には代行を置くというありさまだ。

 政権発足から2年、国際協調派は次々と辞表を出し、政権に残ったのは米国第一主義派だけになった。マティス長官の辞意表明が各国に衝撃と懸念を与えたのは、政権に残る国際協調派の最後の一人だったからだ。結果的に政権内部から異論者の追い出しに成功したトランプ政権は、19年に向け、米国第一主義の牙を一層むき出しにする環境を整えたことになる。

 18年7月、グーグルの画像検索で「idiot(愚か者)」と入力すると、トランプ大統領の写真が多く出てくることが話題になった。いま「dictator(独裁者)」と入力すると、ヒトラーなどと並びトランプ大統領の写真が複数枚出てくる。ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長よりもはるかに多い。新年を迎えるにあたり、これが現実とならないことを祈りたい。 (アエラ編集部 山本大輔)

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