確かなデッサン力に裏打ちされた、華麗な絵柄で繰り広げられる物語は、常に予想の斜め上をゆく展開。半世紀前、少女たちの心をわしづかみにしたバレエ漫画が再び注目を集めている。
【写真】66年の画業をたどる「わたなべまさこ原画展」が開催された
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700ページに及ぶ分厚いコミックの帯に躍るのは、直木賞作家・朝井リョウによる熱い推薦文と「ついに出た! 約50年間、単行本化されなかった幻のバレエマンガがここに蘇る!!」の文字。ただならぬ熱量にあふれた、この作品、『バレエ星』の著者こそ谷ゆき子、その人だ。
戦後、貸本漫画からスタートした谷は、圧倒的な画力とファッションセンスで注目を集めた。漫画ばかりでなく、雑誌のカバーイラストも数多く担当。学年誌が隆盛だった1966年から10年にわたり、小学館で「母恋もの」のバレエ漫画を連載していた。
少女たちの心をつかみ、通常1年間で終わるはずの連載が学年を上がっても続いた。「白鳥の星」「バレエ星」といった「星シリーズ」を次々に発表、絶大な人気を誇った。だが、当時は単行本化されなかったこともあり、70年代後半に漫画家を引退すると、忘れられた存在になっていった。99年に64歳で亡くなり、来年没後20年を迎える。
そんな谷の代表作が昨秋の『バレエ星』を皮切りに、今秋の『さよなら星』まで続けて3冊、立東舎から刊行され、話題になっている。きっかけを作ったのが少女漫画研究グループ「図書の家」の小西優里さん(58)、卯月もよさん(59)、岸田志野さん(49)だ。ネットで出会ったメンバーで少女漫画の考察サイトを作り、その後、関連書の企画制作をするようになった。
図書の家の調査能力の高さは漫画研究者にも高く評価され、2013年に京都国際マンガミュージアムで催された「バレエ・マンガ 永遠なる美しさ」展では資料収集やリサーチ、年表制作を担った。
「展覧会の準備のために予算が下りて、研究者の方々と1年間かけてバレエ漫画を読みこむことになりました。そのときに図書の家が資料として出した谷ゆき子のバレエ漫画を、若い世代の方々が評価してくれたんです」(小西さん)