植物状態になっても「戻ってくるから」 全盲ピアニストの“覚悟” (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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植物状態になっても「戻ってくるから」 全盲ピアニストの“覚悟”

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三島恵美子AERA

チェコ・フィルハーモニー弦楽四重奏団と共演する岩井さん。留学先だった米テキサス・クリスチャン大学の恩師は「真摯で純粋な音色は誰にも真似できない」と評価(撮影/伊ケ崎忍)

チェコ・フィルハーモニー弦楽四重奏団と共演する岩井さん。留学先だった米テキサス・クリスチャン大学の恩師は「真摯で純粋な音色は誰にも真似できない」と評価(撮影/伊ケ崎忍)

 視力を失うことを知った母は、娘にピアノを習わせた。このピアノが、絶望の淵から親子を救い、生きる希望となる。そしていま、難病に苦しむ岩井さんを支えるのも、やはりピアノだった。

*  *  *
 日本列島を大型の台風が縦断した9月末の週末、東京・上野のコンサートホールは静かな熱気に包まれていた。三大ピアノ五重奏曲とされるドボルザークのピアノ五重奏曲第2番イ長調作品81。その演奏がピタリとやむと、静寂に包まれた満席の会場に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。奏者は、チェコ・フルハーモニー弦楽四重奏団とピアニストの岩井のぞみさん(32)。彼らを讃える拍手は、ステージを去った後も続いた。

 この日の主役の一人、岩井さんは「全盲のピアニスト」だ。網膜の先天的な形成異常によって、いつかは左目の視力を失うと診断されていた。その左目よりも先に、幼稚園で遊んでいて積み木が目に入り、右目の視力を失ってしまう。

「神様はいない。なんでこっちの目なの?」

 母・宝美(ボミ)さん(62)が当時の気持ちを吐露する。この事故をきっかけに、「視力を失っても残るものを」と岩井さんは音楽教室に通うようになり、母と子のピアノを中心とする日々は始まった。

 15歳から岩井さんを指導している桐朋学園大学の上野久子特命教授は、「とにかく音がきれい。そして耳がいい。一度聞けば完全に自分のものにして覚えてくる。在学中にわずかな視力も失いましたが、ものすごい努力家です」

 と話す。その恵まれた資質とたゆまぬ努力で才能を開花させ、2015年チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノコンクールで特別賞、16年シューベルト国際ピアノコンクールでは審査委員特別賞を受けるなど国内外で評価されてきた。

 これまで伏せてきたが、岩井さんは生命を脅かすほどのめまいと頭痛とも闘っている。

「この状態でピアノを弾けることが信じられません」

 と話すのは、順天堂大学(代謝内分泌学)の主治医・後藤広昌さんだ。そもそも岩井さんは、生まれつきの頭蓋底形成不全(ずがいていけいせいふぜん)によって、頭蓋骨から髄膜がはみ出している。今後、この脳瘤が鼻腔を塞ぐ可能性もある。さらに下垂体の機能も弱まっていることで、立つことも困難な激しいめまいや頭痛に悩まされている。


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