若松プロに関わっていた人たちみんなで最後まで脱落者を出さずに映画を完成させる──。やり遂げた白石監督の熱い思いは、見る者にも伝播する。

「映画はたった2年半ですが描き切れなかったエピソードは死ぬほどある。それでもこの凝縮感。若松さんは本当にエネルギーの塊だったんだなと想像以上に思いました」

◎「止められるか、俺たちを」
1969年から71年にかけての若松プロを、助監督・吉積めぐみの目を通して描いた青春群像劇。若松プロ映画製作再始動第1弾。監督:白石和彌 出演:門脇麦、井浦新ほか。東京・テアトル新宿ほか全国順次公開。

■もう1本 おすすめDVD「寝盗られ宗介」
 白石和彌監督が最初に見た若松孝二作品が、「寝盗られ宗介」(1992年)。つかこうへい原作の舞台喜劇を、つか自らが映画脚本も手がけた。地方巡業を続ける一座とその妻の風変わりな愛憎関係を軸に、劇団員たちの人間模様を描く。若松作品を見たことがない人にもとっつきやすいコメディーだ。

 富士山を望むのどかな町。北村宗介一座の座長・宗介(原田芳雄)は、一座の看板スターのレイ子(藤谷美和子)を待っていた。彼女は宗介の内縁の妻だが、宗介自ら画策して妻子持ちの謙二と駆け落ちしていたのだ。宗介は男と駆け落ちさせた女房が戻ってくることで、男としての満足を感じていた……。

 見どころは何といっても、終盤に女装した宗介が熱唱する「愛の讃歌」。ご存じ、世界中で歌われているシャンソンを代表する楽曲。エディット・ピアフはもちろん、日本では越路吹雪が有名だが、これほど心打たれたことはない。レイ子への思いの丈が詰まった魂の叫び。震えた。

◎「寝盗られ宗介」
発売・販売元:バンダイナムコアーツ
価格3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2018年10月15日号