「1年前に人が住んでいたと聞き、設備は大丈夫と思ってしまった。これから防寒対策にもいろいろかかりそう。この地域の冬をなめていました」
移住の失敗の原因は住居だけではない。新たな場所で居場所をつくろうとするとき、ぶち当たるのが人間関係の難しさだ。
若い世代の移住の選択肢として人気なのが「地域おこし協力隊」。国の地方創生事業のひとつで、2017年度は4800人を超える隊員が全国985の市町村で活動した。
野村明祥(あきよし)さん(25)は、福島県伊達市の地域おこし協力隊(伊達市では地域おこし支援員と呼ぶ)として17年春に赴任。学生時代から同市にボランティアとして何度も通っていた。「また来てくれたの?」と声をかけてくれる人たちの温かさに触れ、就職活動をやめて移住を決めた。
だが、“ボランティア”と“移住者”に対する地域の目は異なることを実感する。赴任後まもなく、公衆浴場に行ったときのことだ。脱衣所で胸に下げた協力隊のネームホルダーを見た男性から唐突に声をかけられた。
「なんだおめぇ、地域おこし協力隊か? 俺はおめぇらは嫌いだ」
ショックだった。同市では野村さんの前にも20人以上の隊員が活動していた。過去の隊員への評価はまちまち。多額の税金が投入されていることもあり、歓迎されるばかりではないのが現実だった。
「協力隊に対する考え方は人それぞれです。協力隊の看板ではなく、野村という一人の人間として見てもらえるように、関係性をつくっていかなければ、と痛感しました」
今では当の男性からも、「お前はひと味違うな」と言ってもらえるようになったという。
同じく協力隊として中部地方の山間部の村に赴任した20代の男性は、こんな経験を語る。
東京近郊の出身で、田舎暮らしには憧れがあった。協力隊の任期の上限である3年を過ごすつもりで移り住んだが、結局1年で引き揚げることに決めた。原因は自分のやりたいこととのミスマッチだ。