イラスト:飛田冬子
イラスト:飛田冬子

 田舎暮らしに憧れて軽い気持ちで都会から移住したものの、現実は甘くはなかった。実際に移住の厳しさを実感した人に体験談を聞いた。

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 大阪に住む堀井みきさん(30)は2年前、愛媛への移住を決めた。前の住人が引っ越した空き家があると紹介されたのだ。家賃は破格の1万円。

 当時、節約ネタでブログを書き、その収入で暮らしていた堀井さんは、いわゆる「ミニマリスト」を満喫していた。洗濯機も冷蔵庫も持たない暮らしに不自由はなかったし、パソコンさえあれば仕事もできる。自給自足に憧れていたし、虫だって平気なほう。田舎暮らしは自分に向いているに違いない。下見もしないまま、紹介された1カ月後には現地に乗り込んだ。

 到着したニュー我が家は、想像以上の惨状だった。ふすまは破れ、畳はえぐれている。いたるところに埃(ほこり)があり、ハウスダストのアレルギーがある堀井さんは、体調を崩した。

 気を取り直し、DIYで壁紙を張り替え、ペンキを塗り、自分好みの家に変えようと努力したが、ペンキにローラーなど道具と費用が増える一方だった。

 揚げ句の果てには家の中で巨大ネズミと遭遇。開封していない食料も片っぱしからネズミにかじられていた。駆除業者を呼んで見積もりしてもらうと、所要期間は半年、費用は15万円と言われた。これでは家賃がいくら安くても、まったく節約にならない。移住生活わずか3カ月。大阪に戻ることを決めた。

「自然を楽しむのはパートタイムでいい。インフラが整った都会の生活って最高です。現実を知り、老後に田舎でスローライフを、なんていう夢は見なくなりました」

 憧れの古民家暮らしにも、意外な落とし穴は多い。

 岩手県にUターン移住し念願の古民家を借りた30代の女性も想定外の事態に見舞われた。

 引っ越してみると、前住民が給湯器の水抜きをし忘れていて、管が破裂して使えなくなっていたのだ。賃貸契約後に水道が開栓になるため、事前には知る由もなかった。家賃のほかに別途30万円かかることになり、交渉して大家に払ってもらったが、給湯器がない間1カ月半ほど銭湯に通うことに。

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